食品・医療の次世代製品開発を支えるUHMW-PEの加工技術と素材知見の融合

食品製造設備や医療機器に求められる条件は、年々その厳しさを増しています。異物混入対策、静電気防止、衛生性の確保、さらには法規制への対応といった多岐にわたる課題に応えるには、素材そのものの信頼性と、それを高精度に加工する技術力が不可欠です。

このような複雑な要求に対して、近年、注目度を増している素材が「UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)」です。耐摩耗性や化学耐性、さらには自己潤滑性といった基本性能の高さに加え、食品衛生規制や生体適合性の観点でも優れており、食品分野・医療分野の双方で使用が急速に広がっています。

本稿では、世界的に実績のある三菱ケミカルグループのUHMW-PE製品群を中心に、現場課題への対応例を整理します。
フジワラケミカルエンジニアリングは、素材メーカーとの技術交流も通じて、素材特性を深く理解し、用途に最適な加工設計と品質管理を行っています。
こうした取り組みにより、高機能素材の真価を現場で最大限に発揮する製品供給を実現しています。

UHMW-PEの基礎性能と活用分野

UHMW-PEは、分子量300万以上を誇るポリエチレンの高分子材料であり、機械的特性と化学的特性の両立に優れています。以下のような物性が特徴です。

UHMW-PEの物性
  • 極めて高い耐摩耗性(摺動部品への最適性)
  • 自己潤滑性により潤滑剤不要の使用が可能
  • 酸・アルカリなど広範な薬品に対する耐性
  • 吸湿性がなく、清掃・洗浄が容易
  • 高い衝撃強度と耐寒性(-200℃程度まで対応)
  • 一部グレードはFDAやEU規格など、食品・医療用途に適合

これらの特徴から、食品業界では搬送ラインのガイド・スクレーパー・パドルなどに、医療業界では整形外科インプラントや脊椎用部品、歯科部品などに使用されています。

三菱ケミカルグループの食品業界におけるグレード展開とその選定ポイント

食品製造現場では、異物混入防止や衛生管理、静電気除去といった要素が日常的な課題です。三菱ケミカルグループでは、これらの課題に最適化された食品用UHMW-PEのグレード展開を行っています。

TIVAR® 1000 FG Colors

色分けによるゾーニング管理に貢献する多色展開が特長で、工程ごとの識別を容易にし、異物混入対策にも有効です。FDAおよびEUの食品接触規制に適合し、清掃性にも優れます。ローラー、ガイド、ライナーなどに幅広く採用されています。

参考TIVAR® 1000 FG Colors UHMW-PE – MCAM

Detectathene®

金属検出・X線検出が可能なグレードで、万が一の破損時でも異物混入の早期発見が可能です。HACCP管理に適した異物検出性と耐久性を兼ね備えており、冷凍環境(-200℃)でも安定して使用できる耐温特性を備えています。

参考Technical Data Sheet 823/842 – Detectathene UHMW-PE(2024年5月)

TIVAR® CleanStat™ EC

表面抵抗値 ≤10⁵Ω/□ の静電気拡散性能を持つESD対応グレード。粉塵や微粒子の吸着を防止し、包装ラインや粉体取り扱い工程などに適します。

参考TIVAR® CleanStat™ EC UHMW-PE 技術資料 – MCAM

三菱ケミカルグループの医療分野における高信頼性素材と国際対応力

医療用途では、機械的特性に加えて、生体適合性やトレーサビリティ、長期安定性が求められます。三菱ケミカルグループは、これらの要求を満たすMediTECH®シリーズを展開しています。

Chirulen® / Extrulen®

整形外科インプラント向けに開発された高純度グレード。Chirulen®は圧縮成形、Extrulen®はラム押出成形により製造されており、架橋処理や酸化防止剤(ビタミンE)配合にも対応。股関節、膝、肩などの関節置換に使用されています。

参考MediTECH® – Medical UHMW-PE and PEEK Materials

Zeniva® PEEK

骨に近い弾性率を持つPEEK樹脂で、脊椎固定用ケージ、顎顔面インプラント、縫合アンカーなどの構造部品に最適。金属代替材料として信頼性が高く、耐熱・耐薬品性にも優れています。

参考Healthcare Applications – MCAM

UHMW-PEの使用事例

現場で実際に使用されている事例を通じて、UHMW-PEの優れた性能が食品・医療の各分野でどのように活かされているかが具体的に理解できます。工程効率化や衛生性向上に寄与する「滑りやすさ」「耐寒性」「清掃性」、製品信頼性を支える「耐摩耗性」「耐久性」「生体適合性」といった特性が、現場の課題解決に直結しています。

冷凍コンテナ内の霜付着防止ライニング

冷凍食品を輸送するコンテナの内側にUHMW-PEシートをライニングすることで、温度差により発生する霜の付着を大幅に抑制することができます。霜が付着しにくくなることで、作業効率の向上や衛生管理の改善にもつながっています。

冷凍マグロ搬送用の滑り床

水産加工場などで冷凍マグロを移動させる際、冷凍庫の床にUHMW-PE板を敷設することで、摩擦が低減され、重量物(冷凍マグロ)を滑らせて運ぶことが可能になります。台車や人力を使わずに移動できるため、省力化や作業負担の軽減に寄与しています。

整形外科インプラント部品への応用(Chirulen® / Extrulen® UHMW-PE)(※1)

股関節や膝関節などの人工関節部品において、UHMW-PE素材(Chirulen® / Extrulen®)が使用されています。ビタミンE安定化技術や架橋処理により、長期使用に耐える高い耐摩耗性と衝撃強度を実現し、患者のQOL向上に寄与しています。

脊椎固定用ケージ・スペーサー(Zeniva® PEEK)(※1)

Zeniva® PEEKは、脊椎手術における前方・後方腰椎椎体間固定(ALIF/PLIF)用ケージやスペーサーに活用されています。高い強度と剛性、優れた疲労耐性、X線透過性を備え、金属アレルギーリスクを回避しつつ長期的な安定性を提供します。

出典(※1):MediTECH™パンフレット

フジワラケミカルエンジニアリングの技術的支援と対応力

高機能樹脂のポテンシャルを最大限に発揮させるには、素材特性を深く理解したうえでの精密な加工設計と高い品質保証が不可欠です。
フジワラケミカルエンジニアリングでは、三菱ケミカルグループのUHMW-PEをはじめとする各種エンジニアリングプラスチックに対し、長年にわたる切削加工ノウハウと設計最適化技術を組み合わせ、高付加価値な製品供給を実現しています。

具体的には、

  • 0.1mm単位の高精度加工による仕様通りの寸法保証
  • 図面設計段階からの複雑形状(溝、傾斜、段差、曲面)対応提案
  • 切削から検査、納品に至るまでの一貫した品質管理体制
  • 少量・短納期・多品種といった多様なニーズへの柔軟対応

といった取り組みを通じて、お客様の製品開発スピードと市場競争力向上を支援しています。

食品業界においては、摺動部・搬送部品などでの耐摩耗性・衛生性・耐久性確保に貢献し、
医療分野においては、MDR(Medical Device Regulation)対応を見据えた加工・検査体制を整備し、さらなる信頼性向上に取り組んでいます。

他素材との比較から見るUHMW-PEの位置づけ

以下は、代表的なエンジニアリングプラスチック素材との比較表です。

特性UHMW-PEPOM(ジュラコン)PTFE(テフロン)
耐摩耗性
滑りやすさ
耐薬品性
寸法安定性
滅菌対応
コストパフォーマンス

この比較から明らかなように、UHMW-PEは特に「耐摩耗性」「耐薬品性」「滑りやすさ」において他素材と比較して優れており、かつコスト面でもバランスの取れた選択肢であることがわかります。食品・医療のように清掃性や摺動性、長寿命が求められる現場において、極めて実用性の高い素材といえます。

今後の技術展望と対応方針

フジワラケミカルエンジニアリングでは、食品・医療分野でのニーズに応えるため、以下のような技術開発・体制強化を推進しています。

  • 抗菌・抗ウイルス性能を持つ樹脂への対応
  • 再生可能材料との複合化による環境配慮型製品の開発
  • UHMW-PEの繊維強化や金属複合による機能拡張
  • 医療用途におけるクリーン加工環境の整備

これらは、単なる加工技術の高度化だけでなく、社会的責任・法規制・サステナビリティへの対応として位置づけられています。

まとめ:信頼される部品加工パートナーとして

UHMW-PEは、単なる「耐久性のあるプラスチック」ではなく、食品や医療といった人の命と健康に直結する現場において、安全性・衛生性・加工性・規制対応性を高次元で兼ね備えた高度素材です。

三菱ケミカルグループが提供する高機能素材群は、国際的な品質基準のもとで要求水準を満たし、世界中で高い信頼を獲得しています。
フジワラケミカルエンジニアリングは、これら高性能素材の特性を深く理解し、用途ごとに最適な加工設計・品質保証を行うことで、現場での素材価値を最大限に引き出しています。

設計段階から開発パートナーとして関与し、図面仕様の最適化や工程設計、精密加工を一貫して支援する体制を通じて、製品価値の向上と市場競争力の強化に貢献してまいります。