シリコン列島の西の守護神:中国地方が支える日本半導体産業

日本半導体産業は、ここ数年で再び世界の注目を集めています。TSMCの熊本進出、ラピダスの北海道先端ロジック試作など、かつて「失われた30年」と言われた日本半導体の復活を象徴するニュースが続いています。メディアではこれらの大型投資が大きく報じられますが、日本全体を「シリコン列島」として見たとき、もう一つ重要な地域があります。それが中国地方です。

中国地方は、これまで自動車、造船、鉄鋼といった重厚長大産業の拠点として発展してきましたが、近年では半導体産業においても重要な位置づけを占めています。装置・部材・メンテナンス・人材供給といった「産業基盤」を担うこの地域は、前線の工場群を支えるいわば「産業の守護神」です。本稿では、中国地方がシリコン列島において果たす役割と今後の可能性を探ります。

広島・東広島:メモリ生産の最前線

HBM

広島・東広島地域に立地するマイクロンは、次世代DRAMやHBM(高帯域幅メモリ)の開発・量産を進めています。2026年度から2029年度までに約1兆5,000億円規模の設備投資を計画しており、その中には次世代DRAM(1γプロセス)やEUV露光技術への対応が含まれると報じられています。これにより、東広島は世界のAI半導体サプライチェーンの中で欠かせない拠点となりつつあります。

HBMは積層構造を持ち、2.5DパッケージやCoWoSといった先端パッケージ技術とセットで導入されます。この製造には、研磨、貼合、剥離、洗浄、搬送といった精密工程が必要であり、中国地方の装置メーカーや部材加工業者の技術が直接寄与する場面が増えています。

呉:ディスコが支える精密加工

ダイシング

呉市に拠点を構えるディスコは、世界トップシェアのダイシングソー・研磨装置メーカーです。先端パッケージではウェーハの薄化精度が求められますが、ディスコの技術はこの「超薄ウェーハ時代」を支える生命線です。
呉工場は装置と研磨砥石を含む周辺技術の供給体制を持ち、世界中の半導体メーカーから高い信頼を得ています。

岡山・福山:装置と搬送のスペシャリスト

ウエハ搬送システム

岡山・福山エリアには、世界市場で高いシェアを持つ装置メーカーが複数存在します。タツモ(TAZMO)は、パワー半導体向け貼合・剥離装置分野で世界シェア約9割を誇ります。さらにローツェ(RORZE)は真空搬送ロボットやEFEM、ウエハ搬送システムの世界的サプライヤーで、先端プロセスのスループットと歩留まりを支えています。

加えて、地域内には板金、樹脂加工、組立といった周辺産業が多数存在し、装置メーカーの試作・改造・短納期対応を支えています。ここで生まれる部材は、熊本や東広島、四国、九州の工場に即納され、装置の立ち上げスピードを加速させています。

山口・島根・鳥取:材料と後工程

石油化学コンビナート

山口県は石油化学コンビナートを有し、CMPスラリーや樹脂原料といった半導体プロセス材料の供給拠点としてのポテンシャルを持ちます。島根・鳥取では電子部品や後工程組立の中堅メーカーが集積し、国内サプライチェーンを下支えしています。

JETと次世代洗浄技術:新たな役割の芽

半導体製造装置

近年注目されるのが、岡山を拠点とする株式会社ジェイ・イー・ティー(JET)です。2023年に東証スタンダード市場へ上場し、新工場建設や研究開発体制の強化を進めています。さらにJETはラピダスから次世代半導体製造技術の研究開発業務を受託し、北海道千歳市で建設が進むラピダス新工場向けに次世代洗浄装置の開発と検証を進めています。装置の一部はすでに試作段階を終え、評価が進行中とされ、ラピダスの短TAT(製造期間短縮)目標に貢献する技術として期待されています。

参照株式会社ジェイ・イー・ティ

シリコン列島全体での中国地方のポジション

中国地方のポジション

北海道のラピダスが先端ロジックを、熊本のTSMCやソニーが量産ロジックと車載半導体を担います。中国地方はそれらを後方から支える補給基地です。装置や部材の供給、人材派遣、メンテナンス、改造を迅速に行うことで、日本全体のサプライチェーンが強固になります。

また、九州と関西の中間に位置する地理的優位性、整備された物流網、災害リスクの低さもBCPの観点で魅力です。

今後の展望と当社の貢献余地

半導体製造装置筐体

AIサーバー向けHBM需要は今後も伸び、SiCパワー半導体もEV普及とともに再加速すると見られます。これらは研磨、貼合、剥離、搬送、洗浄といった工程の高度化を求めます。

当社としては、

  • 透明治具や可視化治具で流体挙動を可視化し、装置開発・歩留まり改善を支援
  • 耐薬品タンク・配管部材のカスタム設計で薬液管理と純度保持に貢献
  • 短納期対応・現地即応で装置立ち上げのスピードアップを実現
  • 標準化と再現性の確保で量産時の品質安定を後押し

といった形で、装置メーカーやユーザー双方の橋渡し役として、地域全体の生産性を底上げする現場支援型パートナーを目指します。

結び

中国地方は、シリコン列島の中で装置・部材・人材を供給する「産業基盤の要」です。熊本や北海道が前線で輝けるのは、この地域が安定した供給とサポートを行っているからこそ。洗浄工程を含む先端装置エコシステムが根付くことで、日本半導体産業はさらに強靭になります。当社もこの流れの中で、地場産業との連携を深め、現場課題を解決するパートナーとして貢献していきます。