自動車向け半導体の国産化が求められる時代:透明樹脂が拓く“見える化”の新基準
── はじめに:自動車向け半導体の国産化が求められる時代
自動車産業は、EV(電気自動車)化や先進運転支援(ADAS)、自動運転技術の発展により、搭載される半導体の数がこれまで以上に増え続けています。パワー半導体、センサーIC、制御用のマイコンなど、車のあらゆる機能を支える電子部品が増えるなかで、安定した半導体供給が自動車産業全体の基盤になるという認識が強まっています。
こうしたタイミングで発生したネクスペリア・ショックは、半導体の供給が政治的・地政学的理由によって突如途絶える可能性を示しました。特に自動車で多用される “レガシー半導体” が影響を受け、複数のメーカーが生産調整を迫られたことは記憶に新しい出来事です。高性能な最新半導体ではなく、車窓のモーターや安全装置を動かすような比較的単価の低い部品が欠けただけでも車は完成させることができず、この問題は業界全体に大きな警鐘を鳴らしました。
その背景を受け、現在は国内で半導体を安定的に生産し、供給の途絶が起きにくい構造をつくることが重視されています。ラピダスをはじめ国内ファウンドリーの立ち上げ計画が進み、国としても国内での半導体製造を後押ししています。しかし、設備や材料を含むサプライチェーン全体の強化が伴わなければ、真の意味での “国産化” は実現しません。
この文脈において、半導体製造の前後工程で重要な役割を担う “洗浄工程” の安定性は極めて重要です。そして洗浄装置に使われる部材の一部を国内で調達しやすくすること、さらには新たな機能性を付与することが、サプライチェーン強化に寄与するポイントとなりつつあります。そのひとつが、透明樹脂を用いた “見える化” の技術です。
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テフロンは唯一無二。しかし「透明化」の価値が高まっています
半導体洗浄工程では、強酸・強アルカリを含む薬液が使用されることが多く、部材には極めて高い耐薬品性が求められます。この領域で最も信頼されてきた素材が、PFA や PTFE に代表されるテフロンです。長い歴史の中で、テフロンは耐薬品・耐熱性で他に代えがたい特性を示し、現在も多くの工程で必要不可欠な存在です。
しかし、近年は製造装置の自動化・無人化が急速に進み、装置内部の状態を “見える化” することの重要性が高まっています。
液面の上下動、泡の発生、異物混入、液のにごり、流量の変化などは、洗浄品質や歩留まりに直結するため、本来であればリアルタイムに監視しておきたい情報です。
従来は熟練技術者が装置外側から推測し、異常は設備停止後の確認で発見されることも多くありました。しかし、半導体生産ラインが24時間フル稼働し、わずかな停止が大きな損失につながる現場では、透明化によるリアルタイム監視が大きな価値を持ちます。
テフロンは優れた素材ですが、不透明であるため、この “見える化” を実現することができません。そのため最近では、テフロンの特性が不要な箇所や、透明性が付加価値となる箇所で、透明樹脂による可視化を導入する動きが広がっています。これはテフロンの「代替」ではなく、透明樹脂が新しい価値を付与する “機能の拡張” といえます。
PMP と COP が開く新しい透明化の可能性
透明性と耐薬品性を兼ね備え、半導体洗浄装置の透明化に適した素材として注目されているのが、PMP(ポリメチルペンテン)と COP(サイクロオレフィンポリマー)です。それぞれに特性があり、“透明化したい部位に応じて使い分ける” という考え方が重要になります。
PMP(ポリメチルペンテン)の特徴
PMPは、軽量で高い透明性を持ち、薬液に対しても安定した耐性を示す素材です。半導体向けの用途としては近年採用例が増えており、以下の特徴が評価されています。
- 透明性による流れ・液面・泡の視認性
- 加工性が良く、カバーや窓として使いやすい
- 比重が軽く扱いやすい
- 洗浄タンクの上部カバー、観察窓、流路の透明化に適している
すでに実用化が進んでおり、透明化工程の “入り口素材” として採用しやすい点が評価されています。
COP(シクロオレフィンポリマー)の特徴
COPは光学レベルの透明性を持ち、耐薬品性や寸法安定性にも優れています。水分をほとんど吸わず、熱による変形も小さいため、精密な部位やセンサー周辺に適した素材です。
- 透明度はガラスに近いレベル
- 表面が滑らかでカメラ監視との相性が良い
- 耐薬品・耐湿性が高い
- 変形が少なく精密用途に向く
現在、COP を用いた組立部品は試作段階であり、量産レベルの加工体制はこれから整備されていく段階です。しかし、将来的には洗浄工程の高度な可視化部品や、高精度な流路・センサー周辺部品など、応用範囲が大きく広がることが期待されています。
透明素材でありながら耐薬品性にも優れるという特徴は、半導体製造の自動化を進める上で非常に有効な材料特性といえます。
透明化が生む三つの技術的価値(国産半導体の安定生産に直接寄与する要素)
透明樹脂による “見える化” は、単に液面や泡を観察するための仕組みではありません。
半導体製造では、洗浄工程が前後工程の品質を左右する “ボトルネック工程” のひとつであり、ここでの小さな異常が後工程まで持ち越されると、歩留まりや稼働率に直結します。
特に現在は、自動車向け半導体の国産化と供給安定が強く求められており、前後工程の中でも洗浄工程の安定性を高めることは、生産全体の安定化につながります。透明化された部材により、従来取得できなかった「工程の状態変化」をリアルタイムで把握できるようになり、歩留まり改善と装置停止リスク低減に直結します。
その効果は大きく分けて ①品質監視の高度化、②装置停止リスクの低減、③国産サプライチェーンの強化 の三つに整理できます。これらは単なる便利機能ではなく、半導体国産化を支える基盤技術としても位置づけられます。
① AI・カメラ監視による品質管理の高度化
透明化された部材越しに、液面・泡・異物・にごり・流れといった “工程の変化” を直接確認できるようになります。これにより、カメラ画像をAIが解析し、自動的に異常を検知する仕組みが成立します。
AIを使った品質監視は、安定した歩留まり確保に不可欠な技術であり、特に車載半導体のように品質要求が厳しい分野では、透明化による可視化が大きな意味を持ちます。
② ライン停止リスクの低減
半導体の生産ラインは一度停止すると、予定に大きな遅れが生じます。これを防止するためには「異常の早期発見」が鍵になります。
透明化により、
- 流路の詰まり
- 液の変色
- 微細な泡の残留
- 漏れの兆候
- 汚れや沈殿の発生
などをリアルタイムで目視確認できるようになり、故障が大きくなる前の段階で対処しやすくなります。この効果は、国産半導体の安定供給には欠かせない視点といえます。
③ 国産サプライチェーン強化への寄与
PMP や COP は国内での調達性が高く、透明部材の加工を国内で完結できる強みがあります。
洗浄装置は半導体前後工程の中でも重要なプロセスであり、ここで使われる部材の一部でも国産化率が高まれば、サプライチェーン全体の強靭性は確実に高まります。
海外の地政学事情で部材供給が止まった場合でも、透明部材を国内で安定製造できれば、透明部材を国内で安定調達できれば、洗浄工程の停止リスクを抑えられ、前後工程を含む生産ライン全体の強靭性が高まります。こうした基盤強化は、国内で増え続ける自動車向け半導体を安定供給するうえで欠かせない要素です。
自動車産業への波及効果:国産ラインの安定性向上へ
透明化により洗浄工程の信頼性が高まることで、歩留まりと稼働率が向上し、半導体の国内生産能力が安定します。結果として、需要が急増する自動車向け半導体の安定供給を支える基盤が整います。
透明化は、直接的には洗浄工程の改善ですが、その影響は自動車産業にも及びます。
透明部材によって洗浄工程が安定し、異常検知が早期化し、装置稼働が安定すると、
- 半導体の歩留まり改善
- 納期遅延リスクの低減
- 製造ライン停止の抑制
といった効果が生まれます。これは車載半導体の生産計画を左右する重要な要素であり、日本国内での “止まらないライン構築” に寄与します。
車載半導体は国内需要が増加し続けており、安定供給できる体制を整えることは自動車メーカーにとって最重要課題のひとつです。透明化部材はこうした産業全体の強靭性向上に、間接的ながら確実に貢献する技術だといえます。
まとめ:透明樹脂は国産サプライチェーンを強くする “新しい選択肢” です
以上述べてきた内容を整理すると、テフロン(PFA・PTFE)と透明樹脂(PMP・COP)の関係性は次の4点に集約されます。
- テフロン(PFA・PTFE)は洗浄工程の中核素材であり続ける
透明樹脂では置き換えられない耐薬品性・耐熱性がある。 - 透明化はテフロンの “代替” ではなく “機能の拡張” である
透明樹脂が視認性・可視化の新しい価値を担う。 - 最適解は「テフロン × 透明樹脂」のハイブリッド構成
テフロン=プロセスの基盤、透明樹脂=可視化という役割分担が合理的。 - この役割分担が半導体国産化の新基準になる
工程安定 → 歩留まり向上 → サプライチェーン強靭化につながる。
テフロンは今後も洗浄工程の中核として必要不可欠であり、その価値が揺らぐことはありません。しかし一方で、製造装置の透明化によって実現する “自動化・監視の高度化” は、今後の半導体生産においてますます重要なテーマになります。
透明樹脂でしか実現できない価値を適材適所で取り入れることで、テフロンの強みと共存しながら工程全体のレベルアップが可能になります。
- AI検査精度の向上
- ライン停止リスクの低減
- 国産供給網の強化
- 洗浄工程の安定化
- 自動車向け半導体の生産安定への貢献
という一連の価値は、透明樹脂が持つ “新しい機能” でしか得られない効果です。
国産半導体の生産基盤が再び強化されつつある今、透明樹脂による “見える化技術” は、サプライチェーン全体の強靭化に寄与する新たな標準(New Standard) として、今後ますます重要性を高めていくでしょう。
フジワラケミカルエンジニアリングの透明樹脂加工(PMP/COP)
── “見える化” を必要な形で、必要な工程に。
フジワラケミカルエンジニアリングでは、PMP(ポリメチルペンテン)・COP(シクロオレフィンポリマー)を用いた透明部材の精密加工を、1点試作から量産まで一貫対応しています。
- 洗浄タンクの上部カバー
- 観察窓(視認窓)
- 流路の透明化パーツ
- センサー周辺カバー
- リアルタイム監視用のカメラ窓
- 高精度の小型透明部材
など、半導体製造・薬液処理・精密機器向けの “見える化” 構造を、現場の工程条件に合わせて最適化できます。
- 透明性
- 耐薬品性
- 寸法安定性
- 軽量性
- 光学的クリアさ(COP)
- 加工性(PMP)
といった特性を踏まえ、透明化したい部位に応じた素材選定・構造提案を行います。
また、長年培ってきたPE・PP溶接技術と、半導体向け治具製作の知見を組み合わせることで、透明部材単体ではなく、装置としての安定運用を前提にした “工程視点の透明化” を実現します。
可視化されると、工程が変わる。
工程が変わると、歩留まりと稼働率が変わる。
その変化を生む部材を、国内で安定調達できるという価値が、次の国産半導体ラインを支える力になります。
透明樹脂による “見える化” を検討中の方へ。
素材選定から試作・量産まで、どうぞお気軽にご相談ください。

