現場の悩みに応える機能性プラスチック選定ガイド 〜 機能×用途×加工事例 〜

「この部品、もっと静電気が起きないようにしたい…」「洗浄性の高い素材に変えたいけど、どれが正解?」…
現場でこうした声が上がったとき、実はプラスチックの選択肢は金属に比べて格段に豊富です。素材の特性・機能が細分化されているため、「用途」と「課題」にぴったり合うマテリアルが見つかる反面、「豊富すぎて迷うのが現実。
とくに昨今は現場ごとの課題が細分化し、「現場ならでは」の困りごとを素材でどう解決するか
が、設計やメンテナンスの現場力に直結しています。

本コラムでは、フジワラケミカルエンジニアリングが取り扱ってきた機能性プラスチックの「機能×用途」を整理し、実際の加工現場での工夫や選定の考え方を事例とともにご紹介します。
設計者・品質担当者・調達ご担当の皆様が、「材料の目利き力」を身につけるきっかけになれば幸いです。

機能性プラスチック分類マップ

まずは、代表的な機能別に素材を分類した一覧表をご覧ください。
これは「どんな機能が必要か」から逆算して素材を絞るための「現場用インデックス」です。

機能分類素材例主な用途
帯電防止帯電防止PVC、POM-ESD、PEEK-ESD半導体装置、検査治具、搬送台車
耐薬品性PTFE、PVDF、PEEK、PP洗浄装置、薬液タンク、分析装置
UV耐候性UVタフPP、PTFE、耐候グレードPC屋外筐体、農業設備、カバー類
耐放射線性PEEK、PC医療器具、滅菌設備、検査装置
摺動性能POM、UHMW-PE、MCナイロン、PTFEガイド部、軸受け、搬送部品
食品衛生適合PP、PE、UHMW-PE食品ライン部品、シュート、漏斗
耐熱性PEEK、PPS、PEI高温部品、熱処理治具、ヒーター周辺
高透明性PC、PMMA、PMP窓材、透明治具、観察用カバー

◾️重要ポイント解説

  • 帯電防止素材は、静電気による誤作動や異物付着を防ぐだけでなく、「クリーンルーム規格」や「歩留まり向上」にも直結。
  • 耐薬品素材は、洗浄剤や薬液に晒される環境では必須で、素材の「弱点となる化学物質にも要注意(例:PVDFはアルカリに弱いなど)。
  • 高透明性は、観察・モニタリング用途だけでなく「光の透過性・光学的精度」が求められる現場にも重宝。

用途別に見る素材選定のヒント

現場の用途や工程ごとに求められるプラスチックの機能は大きく異なります。
ここでは分野別によくあるニーズと、最適な素材選びのポイント、実際の加工事例を具体的にご紹介します。
「どんな場面で、どの素材が活躍するのか」をイメージしながら、自社の現場に置き換えてご覧ください。

①半導体・電子部品分野

高精度・高クリーン環境を維持するためには、静電気対策や薬品耐性が欠かせません。
この分野では部品の「微細な違い」が歩留まりや品質に直結するため、素材選びの重要性は特に高いと言えます。

  • ニーズ: 静電気対策クリーン環境薬品耐性
  • 推奨素材: 帯電防止PVC(透明性あり)、帯電防止POM(加工性◎)、PEEK導電グレード(耐熱+高機能)
  • 事例:検査装置内のガイド部品を帯電防止POMで製作。静電気による不良が減少し歩留まり向上。

②医療・分析機器分野

衛生・安全といった社会的要求水準が非常に高い分野です。
加えて、繰り返しの洗浄や滅菌にも耐えられること、透明性や耐熱性といった機能も求められます。
こうした複合的なニーズに応えるには、素材の持つ特性を細かく見極めることが大切です。

  • ニーズ: 放射線耐性透明性耐熱性
  • 推奨素材: PMP(透明性+耐熱)、PEEK(耐熱+耐薬品)、PC(高透明性)
  • 事例:滅菌処理が繰り返される試料カバーにPMPを使用。高温にも耐え、透明性を維持。

③食品・飲料工場分野

食品衛生法への適合だけでなく、日々の清掃・メンテナンスのしやすさや、現場での使い勝手も重視されます。
軽量性や加工性の高さなど、金属にはないメリットを活かした素材選定が多く見られます。

  • ニーズ: 食品衛生適合洗浄性耐薬品性
  • 推奨素材: 食品グレードPPUHMW-PE(すべり◎)、PE(耐水性◎)
  • 事例:清掃性を重視してPP製のホッパーを採用。従来のステンレスと比べ軽量で扱いやすくなった。

④屋外・農業設備分野

屋外で使用される部品や設備は、紫外線や雨風などの厳しい環境条件にさらされます。
耐候性・耐久性に優れた素材を選ぶことで、長期間にわたる性能維持とメンテナンス負荷の低減を両立できます。

  • ニーズ: 紫外線耐性耐候性加工のしやすさ
  • 推奨素材: UVタフPPPTFE耐候グレードPC
  • 事例:野外設備の保護カバーをUVタフPPで製作。3年使用しても変色・劣化なし。

⑤搬送・摺動部品分野

摩耗やすべりの良さ、潤滑剤を使わずに済むことなどが要求されるこの分野。
生産ラインや自動機の安定稼働に直結するため、素材ごとの摺動特性や寿命も考慮した選定が欠かせません。

  • ニーズ: 摩耗しにくいすべりが良い油を使いたくない
  • 推奨素材: UHMW-PE(超高分子)、POMMCナイロンPTFE
  • 事例:自動搬送機のガイドレールにUHMW-PEを使用。金属製と比べて摺動性が良く、潤滑不要でメンテが軽減。

このように、同じプラスチック素材でも、用途や現場環境によって求められる特性はさまざまです。
実際の現場では、複数の課題が重なり合うケースも多く、「どの機能を最優先するか?」が素材選定のカギとなります。
過去の事例や類似分野の成功例をヒントに、現場ごとの「最適解」を一緒に見つけていきましょう。

「素材名」で迷ったら、「機能」と「問題点」から考える

「○○という素材を使いたい」と最初に決め打ちするのではなく、「どんな課題を解決したいか」から逆算して選ぶのが失敗しないコツです。

現場の悩み注目すべき機能候補素材
静電気でほこりがつく・誤作動する帯電防止帯電防止PVC、帯電防止POM
アルカリ洗剤に負ける耐薬品性(アルカリ)PP、PVDF、PTFE
紫外線で劣化・割れが起きるUV耐候性UVタフPP、PTFE
洗浄しても汚れが取れにくい非吸湿・表面性状PE、PP、UHMW-PE
高温で変形する耐熱性PPS、PEEK

◾️解説

  • 静電気対策は単なる素材選定だけでなく、加工方法(表面仕上げ、厚み、形状)も性能に大きく影響します。
  • 耐薬品性は「酸性・アルカリ性・有機溶剤、どれにさらされるか?」で素材が変わるため、洗浄剤の成分を必ず確認しましょう。
  • 「洗浄しても落ちにくい」場合は、表面改質やコーティングも検討材料です。

フジワラケミカルエンジニアリングの伴走力

私たちは単に「素材を提案する」だけではありません。
「その素材で、実現したい形・性能・品質を、どう加工で叶えるか?」
ここに「現場の本質的な課題解決」があります。

具体的な伴走事例
  • 設計初期から関わり、素材選定→試作→加工法アレンジまでワンストップ対応
  • 溶接・切削・接着など、複合加工を駆使して「既製品ではできない形状・機能」を実現
  • 「複数素材を比較して最終選定」「コスト/納期/リスクを見える化」など、調達部門・現場双方の視点で提案

◾️主な実績業界

半導体・医療・食品・化学・分析機器・航空機器・農業設備 など

「まず相談ベースから」「図面がなくても現物から再現」など、柔軟な対応力と加工の現場解像度が私たちの強みです。

  • 加工実績:PVC・PP・PEを中心に、POM・PEEK・PTFE等も実績多数
  • 溶接技術:プラスチック溶接、半自動溶接

お客様の課題に寄り添い、加工方法・素材選定・形状提案まで伴走すること。
それが私たちのスタンスです。

おわりに 〜素材からではなく、「悩み」から始める提案〜

プラスチック素材の選定は、まるで「薬を選ぶようなもの」
症状(=課題)を見極めて、最適な処方(=素材×加工法)を組み合わせる必要があります。
どんなに優れた素材でも、現場の使い方・環境・加工精度によって性能が左右されるからです。

今回ご紹介した「機能分類」や「用途別の実例」をきっかけに、「課題ベース」で素材を選ぶ視点をぜひ持ってみてください。
「こんなことで困ってるけど、どの素材がいい?」という一次相談だけでもOKです。
現場の「困った!」に、素材と加工の両面から全力で伴走いたします。