金属から樹脂へ[PP編]:軽く、錆びず、長く使える「実用構造材」への転換

ものづくりの現場ではいま、「金属から樹脂へ」という転換が静かに、しかし確実に進んでいます。
軽量化、防錆、薬品耐性、静音化――。これまで金属でなければ成立しなかった構造や装置も、機能性プラスチックの進化によって、新しい設計の自由度を手にしつつあります。

フジワラケミカルエンジニアリングでは、PP(ポリプロピレン)・POM(ポリアセタール)・MCナイロン・UHMW-PE・PEEK・PVDFといった代表的なエンジニアリングプラスチックを中心に、「金属構造をどう樹脂化するか」という視点から、設計段階での素材選定支援と加工提案を行っています。

本コラム「金属から樹脂へ」シリーズでは、金属の代替として注目される6種類の機能性樹脂を取り上げ、それぞれの特長・設計上の考え方・実際の導入効果を紹介していきます。
素材ごとの「強み」と「設計思想の違い」を知ることで、現場に合った最適な置換設計を見極めるためのヒントをお伝えします。

シリーズ第1回は、PP(ポリプロピレン
軽く、錆びず、薬品に強く、そして加工性に優れたPPは、「実用構造材」として、金属の常識を着実に塗り替えつつあります。

金属の時代が築いた「強さ」の常識

これまで多くの装置や治具は、鉄・アルミ・ステンレス(SUS)で作られてきました。
それは当然のことです。これらの金属は強く、加工しやすく、長い経験値があります。

「とりあえず鉄で」「薬品を使うからSUSで」「軽くしたいからアルミで」――。
そんな選定基準が、ものづくりの世界では長らく「常識」とされてきました。

しかし近年、軽量化・防錆・薬液耐性・メンテナンス負担の軽減を求める声が急速に高まっています。
こうした背景の中で、金属の代替素材として注目されているのがPP(ポリプロピレン)です。

PPはもはや単なる「安価な樹脂」ではありません。
「構造材として成立する機能素材」へと進化しており、現場における素材選定の常識を変えつつあります。

フジワラケミカルエンジニアリング正式基準によるコスト比較

金属から樹脂へ置き換える際にまず確認すべきは、「同等の強度を確保したときの重量・コスト・扱いやすさ」です。
単に「安い素材」ではなく、「構造として成立するか」を判断することが重要になります。

当社では、実際の仕入単価・比重・板厚をもとに「鉄1mm厚=1.0基準」で素材を比較しています。
その結果、ポリプロピレン(PP)は鉄1mm厚に対して約6mm厚で同等の剛性を確保でき、重量は約0.69倍(約3割軽量)・実質コスト比0.41(約60%安)という結果が得られました。

材料比重必要厚み重量比(鉄=1)樹脂単価(鉄=1)実質コスト比コスト評価
鉄(基準)7.81mm1.001.01.0
SUS3047.91mm1.003.03.0高価(約3倍)
アルミ(A5052)2.72mm0.692.01.38やや高い(約1.4倍)
PP(ポリプロピレン)0.96mm0.690.60.41安い(約60%安)

この比較からも、PPは軽く・錆びず・安く、しかも十分な強度をもつ構造材であることがわかります。
薬液槽・スクラバー・配管・カバーなど、耐薬品性が求められる分野では、鉄やSUSを置き換える代表的な素材として定着しています。
また、塗装や研磨などのメンテナンスコストをほぼ不要にできる点も、大きな導入効果です。

PPのPOINT
  • 鉄1mm厚を基準とした場合、PP6mmでも重量は約0.69倍(約3割軽い)
  • 材料コストは鉄の約40%、つまり「錆びないのに安い」
  • SUSは防錆性に優れるが約3倍高価、アルミは軽量だが約1.4倍コスト増
フジワラケミカルエンジニアリング正式基準について

本表は、当社社内で採用している「鉄1mm厚=1.0基準」に基づく正式比較表です。
各素材の比重・厚み・単価は、実際の入手性と仕入単価をもとに算出しています。
用途や時期により変動する場合がありますので、設計検討時の参考目安としてご活用ください。

POMのメリット・デメリット

PPを導入することで、単なる素材変更にとどまらず、現場環境そのものの改善が実現します。

PPのメリット

PPには数多くの利点があり、適切に設計・運用することで金属では得られない効果を発揮します。
特に軽量化、防錆、耐薬品性、加工の自由度といった面で優れており、装置全体の扱いやすさや維持管理コストの削減に直結します。
ここでは、PPの代表的なメリットを具体的に整理します。

① 軽くて扱いやすい

PPは比重0.9で、鉄の約1/9の軽さです。
装置や治具をPP化することで、据付やメンテナンスが1人でも行えるようになる場合があります。
軽量化は搬送コストの削減や作業安全性の向上にもつながります。

② 錆びない・薬品に強い

鉄やアルミは酸やアルカリに弱く、SUSも塩素環境では腐食することがあります。
PPは酸・アルカリ・塩類に対して安定しており、薬液槽・スクラバー・配管・カバーなどに最適です。
塗装・研磨・防錆といった定期メンテナンスが不要になるため、長期的にコストを抑えることができます。

③ 加工が柔軟・形状の自由度が高い

PPは溶着・曲げ・削りが容易であり、金属溶接のような腐食リスクがありません。
リブ構造や曲げ設計を組み合わせることで、一体構造の部品を製作することができます。
構造設計の自由度が大きく広がるのもPPの魅力です。

④ トータルコストが安い

SUS製設備では5〜10年で研磨・交換が必要になるケースもありますが、PPであれば15年以上使用可能な例もあります。
初期費用だけでなく、維持・交換を含めた「生涯コスト」で見ると、PPは圧倒的に有利です。

PPのデメリットと注意点

PPは多くの利点を持ちますが、適切な設計と運用条件を理解して使うことが大切です。

① 耐熱・剛性の限界

PPの耐熱温度は約100℃です。
高温ラインや高負荷構造物では変形する可能性があります。
その場合はPEEKやPVDFなどの上位樹脂を選定するのが現実的です。

② 弾性が高く、局部荷重に弱い

PPは柔らかいため、ボルト締結部などに応力が集中すると座屈や変形が起こることがあります。
このため、設計段階で金属カラー・座金の併用が推奨されます。
また、板厚6mm基準+リブ補強を行えば十分な剛性を確保できます。

③ 紫外線劣化

屋外では紫外線により表面劣化や色あせが発生します。
対策としては防UVグレードのPP板を使用するか、遮光構造にすることで回避可能です。

PP特長のまとめ

PP(ポリプロピレン)は、軽くて扱いやすく、錆びず薬品にも強いことから、金属の代替素材として幅広く使われています。加工が容易で設計の自由度も高く、薬液槽やカバー、配管などの長寿命化・軽量化に効果を発揮します。
一方で、耐熱温度は100℃前後と高温には弱く、柔らかいため局部荷重や紫外線劣化には注意が必要です。
リブ補強やUV対策を行うことで、コストパフォーマンスに優れた「錆びない構造材」として安定した性能を発揮します。

金属との比較:「強さ」より「使いやすさ」

樹脂化を検討する際には、「どこまで金属の機能を維持しつつ、軽く・扱いやすくできるか」という比較が欠かせません。
ここでは、鉄・SUS・アルミとPPの代表的な特性を整理し、設計上の判断材料を明確にします。

比較項目SUS304アルミPP
重量重い重い軽い軽い
耐薬品性×〇(一部腐食)
加工性切削・溶接切削・溶接切削溶着・削り・曲げ
防錆性要塗装錆びにくい錆びにくい錆びない
耐熱性
コスト比1.03.01.380.41

この比較から見えるのは、PPが金属の「強さ」よりも「使いやすさ」で優れる素材だという点です。
鉄やSUSでは重く、アルミでは薬品に弱い場面でも、PPは軽量・防錆・耐薬品性を同時に実現。
加工も容易で、曲げや溶着による一体成形が可能なため、設計自由度が大きく広がります。

特に薬液や湿気を扱う環境では、PPは金属の弱点をすべてカバーできる実用素材です。
「強度」ではなく「総合的な使いやすさ」で選ばれる構造材として、現場の省メンテナンス化と長寿命化を支えています。

導入効果と実例:現場で見える成果

PPへの置き換えは、理論的な性能比較にとどまらず、実際の現場でも確かな成果を上げています。
以下は当社が手がけた代表的な事例であり、寿命・コスト・作業性のいずれにも改善効果が見られます。

実績
鉄製薬液槽 → PP製薬液槽

錆・塗装メンテ不要。寿命2倍、コスト40%削減。

実績
SUSカバー → PPカバー

軽量化により設置工数を半減。清掃作業も簡易化。

実績
アルミフード → PPフード

同重量ながら薬液耐性アップ、再製作コスト半減。

これらの導入結果から明らかなように、PP化によって「錆びない」「軽い」「安い」という単純な利点を超え、現場全体の運用改善とメンテナンス負担軽減が実現しています。換は、単なる「素材変更」ではなく、運用全体の効率化をもたらします。

設計のポイントと最適化の工夫

金属と樹脂では、同じ形状・同じ寸法でも、「強度の生まれ方」や「応力の流れ方」が根本的に異なります。
金属は剛性によって力を受け止め、樹脂は弾性によって力を分散します。
したがって、単に素材を置き換えるだけでは最適設計にはなりません。
それぞれの素材が持つ力学的な「考え方」を理解し、設計段階から構造の考え方を切り替える必要があります。

① 金属設計の考え方 :「薄く強く」

従来の金属設計では、「できるだけ薄く、軽く、強度を保つ」ことが原則でした。
鉄やアルミ、ステンレスなどの金属は、剛性が高く弾性変形が少ないため、薄肉構造でも十分な強度を確保できます。
そのため、設計の焦点は「強度確保のための断面最適化」や「溶接・ボルトによる接合精度の維持」に置かれてきました。
しかしこの発想のまま樹脂を扱うと、たわみ・座屈・溶着部の剛性不足といった問題が発生します。
つまり、金属設計の延長では樹脂構造を正しく機能させることができません。

② PP設計の考え方:「厚くして支える」

PPでは、金属とは逆に「厚みで分散させる」設計が要となります。
たとえば鉄1mmを基準にすれば、PPでは約6mmの厚みで同等の剛性を得られます。
さらにリブ構造や曲げ加工を組み合わせることで、軽量化と高剛性の両立が可能です。
構造を“薄く削る”のではなく、“厚く作って支える”――これがPP設計の発想です。

PP設計の本質は、「硬さよりもしなやかさ」。
衝撃や振動を吸収し、破断しにくく、扱いやすい構造体を実現します。
金属では「強さで耐える」設計だったものを、PPでは「しなやかさで受け止める」設計に変えることで、装置全体の安全性・耐久性・保守性が大きく向上します。

設計総括:素材選定と判断の基準

これまで見てきたように、PPは軽量・防錆・耐薬品性を兼ね備え、金属の「常識」を大きく変える素材です。
では、実際の設計判断において、どのような観点で比較すべきでしょうか。

観点金属PP
重量重い(SUS・鉄)約0.69倍(軽量)
コストSUS高価、アルミやや高い約0.41倍(安価)
耐薬品性鉄×、SUS○、アルミ△◎(薬液・酸・アルカリすべて強い)
メンテナンス再塗装・研磨必要不要(錆びない)
加工性切削・溶接溶着・曲げ・削り自由
耐熱性△(100℃まで)

PPは「錆びないのに安い」「軽いのに丈夫」という、金属では両立しにくい特性を実現しています。
薬品環境、軽量化、保守削減――この3条件がそろう現場では、PPが最も合理的な選択肢となります。

重要なのは、「金属か樹脂か」を単純に比較することではなく、「どこまでPPに任せられるか」を見極める設計思想を持つことです。
この発想の転換こそが、金属から樹脂への移行を成功に導く鍵となります。

まとめ:金属からPPへ、「軽く錆びない構造」という選択

PPは、これまで金属設計で培われてきた「強度中心の発想」を覆し、しなやかで長寿命な「使いやすい構造材」として定着しつつあります。

薬液槽・スクラバー・筐体・配管部材など、金属では錆や腐食が避けられなかった領域において、PPは「軽く」「錆びず」「長く使える」素材として確かな実績を積み重ねています。

フジワラケミカルエンジニアリングでは、PPを中心にPE・PVDF・PEEKなどの耐薬品性樹脂を活用し、金属装置の置換設計・軽量化・長寿命化の支援を行っています。

PPは単なる「安価な代替」ではなく、構造設計を進化させる実用素材です。
軽量化による取り回しの改善・薬品環境での耐久性・メンテナンス性の向上――
これらを同時に叶えるPPは、現場の生産性・安全性・信頼性
を支える確かな選択肢といえます。

そして何より重要なのは、「どこまでPPに任せられるか」を見極める設計思想を持つこと。
この視点こそが、次世代のものづくりを支える鍵となります。

フジワラケミカルエンジニアリングの提案姿勢

フジワラケミカルエンジニアリングは、
お客様の製品開発に伴走する技術パートナーです。

PP・POM・MCナイロン・UHMW-PE・PEEK・PVDFなど、多様なエンジニアリングプラスチックに精通し、素材選定から加工設計、製作までを一貫してサポートしています。

薬液槽・スクラバー・筐体・配管部材など、金属では避けられない錆び・重量・薬品劣化といった課題に対して、PPによる軽量・防錆・長寿命化構造をご提案します。

長期使用でのメンテナンス削減やコスト最適化など、現場での実証効果を多数積み重ねています。

「この設備、樹脂で置き換えられる?」
――そんな初期段階から、素材特性と構造の両面で最適解を導きます。