2040年ネットゼロへの挑戦:プラスチック加工業のCO2削減の実践

── はじめに:計算・報告から「削減」のフェーズへ

毎年4月、製造業の現場は前年度のエネルギー使用量と二酸化炭素(CO2)排出実績を算出し、報告するという重要な業務の節目を迎えます。
当社、フジワラケミカルエンジニアリングにおいても、この期間は自社の活動が環境に与えた負荷を客観的な数値で直視する大切なタイミングです。

現状において、当社のような中小企業の多くは「実績を正確に計算し、報告する」という段階に留まっているのが実情です。
しかし、今後は中小企業であっても、サプライチェーン全体での脱炭素化という大きな流れの中で、具体的な「削減」に向けた取り組みが不可欠となります。

特に、お取引先である半導体製造装置メーカー様からは「2040年ネットゼロ(排出実質ゼロ)」という極めて高く、かつ具体的な目標が提示されています。
2040年という期限は、製造設備や工場のインフラ更新サイクルを考えると、決して遠い未来ではありません。
私たちは今、これまでの「現状把握」から、技術的な「削減」へとパラダイムシフトを図るべき地点に立っています。

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    現状分析:データが語るエネルギー消費の「二大障壁」

    敵は2つ。空調とコンプレッサー、この2系統が排出の約6割を握っています。

    当社のCO2削減の取り組みは、2018年度に実施した「CO2削減ポテンシャル診断」を出発点としています。
    この診断で明らかになったエネルギー構造は、主要設備を大きく更新していない現在も基本的に変わっておらず、削減戦略を考えるうえでの基準データとして今も有効です。

    当社の電力消費内訳(2018年度実績・基準年)

    当社のCO2排出は全量が電力由来で、年間177 t-CO2、消費電力は264.3千kWhです。

    • 年間電力消費量:264.3千kWh
    • 年間CO2排出量:177 t-CO2
    主要機器別CO2排出割合
    出典:JFE西日本ジーエス株式会社によるフジワラケミカルエンジニアリング環境計測データ(2018年度)
    設備・機器割合備考
    空調(EHP)35.0%最大排出源
    コンプレッサー26.2%第2位
    NCルーター11.8%
    照明9.5%
    集塵機6.3%
    NC旋盤5.0%
    その他6.2%
    出典:環境省 2019年度CO₂削減ポテンシャル診断(JFE西日本ジーエス株式会社)

    注目すべきは、全体の約6割が「空調」と「コンプレッサー」の2系統で占められていることです。
    これらはプラスチック加工において品質と生産性を支える根幹設備であり、削減には高度な技術的判断が求められます。

    月別のCO2排出傾向

    8月の排出量が年間最大となっており、空調の冷房負荷が全体の排出量を大きく左右しています。

    月別CO2排出量
    出典:JFE西日本ジーエス株式会社によるフジワラケミカルエンジニアリング環境計測データ(2018年度)

    月別に見ると、8月のCO2排出量が突出して高く、年間最大となっています。
    これは夏場の冷房需要による空調負荷の急増が主因です。
    一方、1月・5月など比較的気温が穏やかな月は排出量が抑えられており、空調がいかに全体の排出量を左右するかが数字にはっきり表れています。

    品質維持とエネルギーのトレードオフ:空調のジレンマ

    空調を止めれば、品質が止まります。だから「断熱と効率化」で攻めます。

    プラスチック素材は金属と比較しても熱膨張率が高く、周囲の温度変化によって寸法が容易に変動します。
    半導体装置部品のような高精度なプラスチック加工において、夏場の室温管理は単なる作業環境の改善ではなく、製品の「寸法精度」を担保するための絶対的な品質管理項目です。

    診断結果においても、冷房負荷が高まる8月に排出量が最大化する傾向が顕著ですが、気温上昇が続く昨今の環境下において、品質を担保しつつエアコンの使用を制限することは技術的に不可能です。
    したがって、空調における削減戦略は「我慢する」ことではなく、いかに外気の影響を遮断し、少ない電力で設定温度を維持するかという「建屋の遮熱・断熱性能」や「空調の運用効率」を極める方向にあります。

    戦略的更新:2017年新築から「10年目の壁」を越える

    「買い替え」を「投資」に変えるだけで、削減の速度は変わります。

    2017年(平成29年)3月に新築移転した当社の工場は、屋根・外壁の断熱化やLED照明の導入など、建屋自体は新しい部類に入ります。
    しかし、稼働から年数が経過し、まもなく多くの設備や器具が更新時期とされる「10年」の節目を迎えます。

    この更新期を、私たちは単なる「老朽化による買い替え」ではなく「CO2削減のための投資」と定義し直しています。

    器具選定における「CO2視点」の導入

    照明更新では「明るさ・単価」ではなく「消費電力削減量とCO2排出削減ポテンシャル」を最優先基準とします。

    例えば照明器具の更新においても、これまでは「明るさ」や「導入単価」が優先されてきましたが、次回の更新では、製品寿命を通じた消費電力削減量とCO2排出削減ポテンシャルを最優先基準として選定します。

    診断でも指摘されていた「一部旧型のLED照明の移設」によるエネルギーロスなどの課題を解決し、最新の省エネ性能を備えた器具に一新することで、照明部門(全体比9.5%)の負荷を着実に削り取ります。

    重点対策:コンプレッサーの「変動負荷」への最適解

    当社にとって、空調に次ぐ排出源であり、かつ大型の設備更新として最もインパクトが大きいのがコンプレッサーです。

    フレキシブルな稼働の必要性

    機械の稼働・停止で使用量が激しく変動するため、一定量を供給し続けるスクリュー型では無駄な電力消費が避けられません。

    当社のエアー使用状況には、特有の激しい「波」があります。
    機械がフル稼働しているときは膨大な量を使用しますが、機械が停止すると使用量は極端に減少します。

    • 技術的な課題
      一般的な「スクリュー型コンプレッサー」は、安定して一定量のエアーを供給する際には非常に高効率ですが、当社のような使用量の波が激しい環境では、負荷変動に追従できず、無駄な電力消費が発生しやすくなります。
    • 次世代への選択
      今後の大型更新においては、使用量に合わせて回転数をフレキシブルに制御するインバータ機や、複数台の最適制御が可能なシステムへの転換が必須となります。
      これにより、待機時の消費電力を最小化し、実使用量に見合ったエネルギー消費へと最適化を図ります。

    中小企業の限界と期待

    CO2削減設備への補助金は生産性向上要件が壁となっており、中小企業にとって制度の拡充が急務です。

    こうした設備更新は、環境負荷低減には絶大な効果がある一方で、直接的な「生産台数の向上」に繋がるわけではありません。
    そのため、現在の公的な補助金制度では利用に制限があることも多いのが実情です。
    私たちは今後、生産性向上要件だけでなく、CO2削減そのものを目的とした補助金制度の拡充を期待しつつ、適切なタイミングでの大型投資を計画しています。

    2030年以降の抜本的対策と技術進化

    2030年以降は蓄電設備の導入が鍵となり、再エネ電力の自家制御によって初めてネットゼロが現実的な射程に入ります。

    2040年のネットゼロ達成に向けて、私たちが描く将来のロードマップには、現時点での技術の積み上げだけでは到達できない「抜本的な対策」が含まれています。

    蓄電設備の導入によるエネルギー革命

    昼間の再エネを蓄え夜間・ピーク時に活用する蓄電設備の導入が、2030年以降のネットゼロ達成を現実的にします。

    2030年以降、私たちが最も期待を寄せているのが「蓄電設備」の導入です。現在、屋根を貸して太陽光発電を行っていますが、将来的に発電した電気を自社で貯めることができれば、これまでの節電という枠組みを超えたエネルギーマネジメントが可能になります。

    • 昼間の再エネを貯め、夜間やピーク時に活用します。
    • コンプレッサーやNCルーターの突発的な電力負荷を蓄電池で補います。

    蓄電技術が進歩し、導入コストが中小企業にも現実的なものになれば、不安定な再エネ電力を工場の基盤エネルギーとして完全に制御できるようになります。
    これが実現したとき、2040年のネットゼロという目標は、確かなリアリティを持って私たちの手の届く範囲に現れます。

    結び:技術屋としての誠実な歩み

    現状の「実績報告」から、具体的な「削減の実践」へ。
    道のりは険しく、中小企業としての資金的な制約や技術的なジレンマもありますが、私たちはデータに基づいた着実な歩みを続けます。

    気温上昇という外部環境の変化に対応しつつ、高品質なプラスチック製品を提供し続けること。
    そして、その製造過程で出るCO2を技術の力でゼロに近づけていくこと。
    2040年のネットゼロ達成は、単なる目標ではなく、半導体業界を支える「モノづくり企業」としての私たちの誇りと責任です。

    よくあるご質問

    プラスチック加工業でもネットゼロは達成できるのですか?

    プラスチック加工では空調やコンプレッサーの使用が避けられないため、単純な使用制限は品質リスクに直結します。
    そのため、設備の省エネ化・インバータ化・断熱強化・再エネ活用といった複数の施策を組み合わせることが重要です。
    当社は2018年度の診断データを基準年として、段階的な削減ロードマップを策定しています。

    CO2削減ポテンシャル診断とは何ですか?

    2019年度に当社が受診した「CO2削減ポテンシャル診断」は、環境省が実施する二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金の一環です。
    専門の診断機関が現場に入り、主要設備の電力消費を実測したうえで、省エネ対策の優先順位とCO2削減効果・投資回収年数を算出してくれます。
    中小企業にとって自社では難しいエネルギー構造の可視化を低コストで実現できる有効な制度です。

    コンプレッサーのインバータ化はどのくらいの効果がありますか?

    当社の診断結果では、コンプレッサーは全体のCO2排出の26.2%を占める第2位の排出源です。
    吐出圧力を0.1MPa下げるだけで約10%の省エネ効果が得られるとされており、インバータ機への転換やエアブローのパルス化(エアセービングユニット導入)を組み合わせることで、合計で最大7t-CO2程度の削減効果が期待できます。

    中小企業がCO2削減設備を導入する際に使える補助金はありますか?

    現行の主な補助金として「省エネルギー投資促進支援事業(省エネ補助金)」や「低炭素機器導入促進事業」があります。
    ただし多くの制度で生産性向上や省エネ率の要件が設けられており、CO2削減のみを目的とした設備更新は対象外となるケースもあります。
    なお補助金制度は年度ごとに変更される場合があるため、最新の公募情報は環境省・経済産業省の各ウェブサイトでご確認ください。

    プラスチック加工のCO2削減についてお気軽にご相談ください

    サプライチェーン全体の脱炭素化に向け、取引先からCO2削減の要請を受けている製造業の皆様。
    フジワラケミカルエンジニアリングは、プラスチック加工の現場目線でCO2削減の取り組みを進めています。
    自社の経験をもとに、同じ課題を抱える企業様のご参考になれることがあれば幸いです。

    まずはお気軽にお問い合わせください。

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