品質・納期・コストが変わる!プラスチック加工図面の重要ポイントを徹底解説

プラスチック加工図面は、製品の品質・納期・コストを大きく左右する重要な技術資料です。金属加工図面とは異なり、プラスチック特有の性質や設計ルールが存在します。本コラムでは、失敗しないための「プラスチック加工図面の書き方」や「図面上での注意点」、さらに品質・納期・コストの最適化につながる実務ポイントを、現場視点でわかりやすく解説します。

プラスチック加工図面の寸法単位と投影法:図面の書き方の基本

製作図面では寸法の単位を明記し、図面全体で単位系を統一することが基本です。プラスチック加工図面では、特に断りがなければ「mm(ミリメートル)」を使用するのが一般的です。角度や表面性状など別単位を使う際は、その都度必ず単位を記載しましょう。

また、投影法は日本では第三角法が主流となっています。

材料記号・色・品番・グレードの図面指定と品質維持

材料記号の記載は材料の種類はJIS K6899-1(ISO 1043)規定の略号を用いることが一般的で、誤認や伝達ミスを防ぐことができます。

<例>

色やグレード、品番の指定

プラスチックは透明・特殊グレードなど多様なバリエーションがあります。必要に応じて材料記号に続けて明記します。記述の方法は様々ですが、よく使用されている例を下記に紹介します。

<例>

材料品番を指定することで、メーカー間による色合いや物性値のバラツキを抑えられます。しかし、指定品番が廃番・在庫切れの場合は納期やコストに影響が生じるため、事前確認や柔軟な対応も重要です。

寸法公差の指定とプラスチック加工図面の注意点(品質・納期・コストへの影響)

寸法公差は、製品精度や組立性に直結する重要な指定事項です。また、プラスチック特有の性質も考慮し適切な公差を設定することが重要です。

寸法公差の活用パターン

・一般公差の活用

個々の寸法に公差値を書き込むのではなく、図面備考欄で一括指定する方法が一般的で、たとえば「JIS B 0405 中級(m)」などと明記します。

・重要寸法の場合

穴ピッチ・嵌合部など組立精度に直結する部分は、一般公差では不十分なこともあります。そのため、個別に公差を指示することも重要です(例:「φ10 ±0.1」)。

プラスチックは金属よりも温度変化や加工応力の影響で変形しやすく、金属と同じ公差を指定しても達成困難な場合があります。
高精度が必要な場合は、切削加工の選択や測定温度の規定など、追加配慮が不可欠です。

温度膨張の例

MCナイロン(線膨張係数80)温度20°で長さ「100」の場合 → 温度30°に上昇すると+0.08で「100.08」となる

表面性状や角部仕上げの図面指示と失敗防止

成形直後のプラスチック素材(板や丸棒)は多くが光沢があり、透明材は透明性が担保されています。
光沢や透明度が必要な場合「表面未切削」「研磨仕上げ」など具体的な仕上げ指示や記号が必須です。
また、怪我防止のために角部処理の指示も必要です。プラスチック加工品においては、糸面取り(C0.3程度の手作業の面取り)がよく使われています。そのため、「指示なき角部は糸面取り」などの表記があればいいでしょう。

接合・溶接に関する図面記載とコスト削減の工夫

部品の接合方法は誤解のないよう明確に指示しましょう。
プラスチックの接合によく使われる方法には「溶剤接着(有機溶剤)」「熱風溶接(ホットジェット溶接)」があります。

接合方式の選択例

素材や用途によって適切な接合方法は異なります。例えば、PVC・PPは溶接適性が高く、大型タンク等に最適ですが、MCナイロンは接着・溶接が基本的にできない素材なので、切削加工のみとなります。
また、強度や水密性が必要ない部分は、接着のみで可という指示をすれば、不要な溶接歪みやコスト削減につながる場合もあります。

溶接記号・溶接棒の指定

プラスチック溶接も金属と同様の溶接記号を使い、主にV形開先・レ形開先・すみ肉といった種類の溶接記号を指定します。溶接部仕上げの補助記号は平仕上げを用いるか、仕上げが必要ない場合は溶接棒を盛りっぱなしとなります。

「Φ3S溶接棒すみ肉溶接」の記号例
Φ3Sの溶接棒ですみ肉陽悦の記号指示による実際の溶接
上記記号指示による実際の溶接

溶接棒は断面が丸になっており、丸個数によりシングル・ダブル・トリプルの3種に区別されます。また、丸の大きさもΦ2(直径2mm)、Φ3(直径3mm)、Φ4(直径4mm)があり、丸の大きさと形状で溶接棒の種類が決まります。各種類によって、溶接強度、応力歪み、溶接難易度などがあるので、用途に応じた選定が必要です。

主なプラスチック溶接棒の種類(材質によっては、当該溶接棒が存在しない場合あり)
主なプラスチック溶接棒の種類(材質によっては、当該溶接棒が存在しない場合あり

曲げ加工など特殊工程の図面書き方と品質管理

プラスチックの曲げ加工は、ヒーターや電気炉を使った熱曲げが主流です。直角曲げR曲げ、円筒状曲げなど、意図に沿った形状に応じた指定をしましょう。また、熱による影響を受けやすいため精度を重視する部分は、注記をつける場合も必要です。

その他、プラスチックは温度変化や切削・溶接熱の影響を受けやすいこと、軟らかく欠けやすいこと、材質により溶接ができる・できないなど、金属とは異なる性質も設計段階で考慮が必要です。
参考図や詳細図、断面図や部品展開図の追加も、設計意図の伝達や加工・組立ミス防止に大きな効果があります。

まとめ

プラスチック加工図面は、素材特性や加工法の違いから、金属加工図面とは異なる独自の注意点やノウハウが求められます。寸法公差や材料指定、表面性状、接合方法の選択など、ひとつひとつの記載が製品品質やコスト、現場作業のしやすさに直結します。プラスチック特有の性質を理解し、設計段階から適切な指示や工夫を加えることで、トラブルを未然に防ぎ、より高精度かつ安定したものづくりが可能となります。

また、図面の記載内容は社内外の技術者や加工現場との大切なコミュニケーションツールです。お互いの経験や知見を活かし合いながら、最適な図面作成と仕様伝達を心がけていくことが重要です。当社フジワラケミカルエンジニアリングでは、長年プラスチック加工業に従事し、様々な図面を読みこんできた実績がありますので、図面に関しての不明点などありましたら、お気軽にお問い合わせください。

【補足】よくあるご質問(プラスチック加工図面 Q&A)

プラスチック加工図面の正しい書き方とは?

寸法単位や公差の明記、材料記号や品番の指定、表面仕上げ・接合方法の指示まで、現場の品質・納期・コストに直結する要素を網羅的に記載することが大切です。特にプラスチック特有の変形や材料バリエーションにも注意しましょう。

図面の注意点で、特に気をつけるべきポイントは?

プラスチックは金属よりも温度変化や加工応力の影響を受けやすいため、図面公差や仕上げ指示、材料グレード指定など細部まで注意する必要があります。図面の注意点を押さえることで、後工程のトラブルや追加コストを防げます。

図面が原因で納期やコストが増えることはありますか?

図面の書き方や注意点が不十分だと、追加加工や部品の手配遅延が発生し、納期遅延やコスト増につながります。プラスチック加工図面での「正確な指示」「明確な仕様伝達」が品質・納期・コスト管理には不可欠です。

プラスチック加工図面を作成・見直す際のチェックリストは?

寸法単位・公差、材料・グレード、表面性状、角部仕上げ、接合方法、特殊加工(曲げなど)、コスト影響を事前に確認することが重要です。詳しい図面の書き方や注意点は当社までご相談ください。