電子レンジと過熱蒸気に耐えるトレー素材:大手冷凍食品メーカーがPMPを選んだ理由
※写真はイメージです。
はじめに:加熱環境が多様化し、トレー素材に新たな基準が求められている
家庭向け食品の加熱は電子レンジが中心でしたが、近年はスチームコンベクションオーブンや電子レンジ+過熱蒸気の複合機など、より高度な加熱方式が一般化しています。食品の種類や油分、粘度、含水率によって加熱挙動が変化するため、トレーはこれまで以上に厳しい熱ストレスにさらされています。
こうした中、当社フジワラケミカルエンジニアリングには、大手冷凍食品メーカー様より「技術開発目的」でPMPトレーのご依頼をいただきました。これは、実際の開発現場から直接寄せられた一次的なニーズに基づく検討であり、加熱環境の変化が素材選定に具体的な影響を与え始めていることを示しています。
メーカー様から提示された開発テーマは次の通りです。
- 電子レンジによる内部加熱
- 高圧蒸気(過熱蒸気)による外側からの加熱
つまり、電子レンジと過熱蒸気という「異なる熱の入り方」の双方に耐えるトレーの検討が求められていました。
本コラムでは、この一次情報を軸に、複合加熱における課題整理・PMPの利点・技術開発における考慮ポイントを、技術担当者の視点から詳しく解説します。
電子レンジ+過熱蒸気という「二重の負荷」
複合加熱環境でトレーが受ける負荷は、単なる高温ではありません。そこには、性質の異なる二つの熱作用が同時に加わるという、設計上避けて通れない特徴があります。
① 電子レンジ(マイクロ波)
まず一つは、電子レンジによる「内部からの点加熱」です。
電子レンジは食品内部の水分分子を振動させて発熱させるため、食品によっては局所的に温度が跳ね上がる「ホットスポット」が発生します。熱の入り方が不均一で、一点に集中的な熱ストレスがかかりやすいという特徴があります。
② 過熱蒸気(高圧蒸気)
二つ目は、過熱蒸気による「外側からの面・圧力加熱」です。
高温の蒸気が容器全体を包み込むように接触するため、外側の面全体に均一かつ強い熱ストレスがかかります。ここでは温度だけでなく「圧力」「水分」も同時に作用するため、素材そのものの耐性が直接試される環境になります。
二つの負荷が重なると何が起きるのか
ここで重要なのは、「内部からの点加熱」と「外側からの面・圧力加熱」が同時に発生するという点です。
この二つの負荷が重なり合うことで、トレーは以下のような不具合が起きやすくなります。
- 反り・たわみ
- フランジ部の浮き、シール不良
- 白濁、局所的なクラック
- 繰り返し工程での疲労や劣化
つまり、複合加熱は素材選定や形状設計の「難しさを一段階引き上げる条件」なのです。
そのため、この二重負荷を正しく理解し、それに耐え得る素材を選ぶことが、食品トレーの設計では極めて重要になります。
従来トレー素材の整理:PP・CPETの強みと限界
食品容器で広く使われているPPとCPETは、それぞれに明確な得意領域があります。しかし、電子レンジ+過熱蒸気という負荷の組み合わせになると、素材の設計限界が露呈しやすくなります。
まずは両素材の特徴と課題を、技術視点で整理します。
① PP(ポリプロピレン)トレー
PPは電子レンジ用容器の「標準素材」として長年使われています。軽く成形しやすく、油分を含むメニューにも比較的安定して耐えられることから、多くの冷凍食品やチルド食品で採用されています。
しかし、電子レンジ単独であれば問題ない場面でも、過熱蒸気と組み合わせることで温度上昇が急激になり、トレーの形状安定性に不安が生じることがあります。
- 電子レンジ対応の代表素材
- 軽量で成形自由度が高い
- コストバランスに優れる
- 高温長時間では反り・たわみが出やすい
- 油脂の多い料理では白濁や微細クラックが出る
- 複合加熱では設計余裕が小さくなる
つまりPPは、「電子レンジ前提の標準トレー」としては非常に優秀である一方、電子レンジ+高圧過熱蒸気では安全率が小さくなるポジションにあると言えます。
② CPET・PET系トレー
CPETは耐熱性とバリア性を重視した素材で、冷凍〜レンジ〜一部オーブンまで対応可能なタフな素材設計が特徴です。
一方で、透明性や軽量性とは方向性が異なり、視認性が重要な技術検証用途では不向きな場合があります。
- 高耐熱グレードで幅広い加熱条件に対応
- バリア性が高く長期保存に向く
- 低温衝撃で割れやすい
- 透明性が低く、内容物の視認が難しい
- 軽さ・見える化が求められる用途には不向き
CPETは、「バリア性・高耐熱性重視のタフな素材」ではありますが、複合加熱の検証や透明性が求められる場面では最適とは言えないという位置づけになります。
PMP(ポリメチルペンテン)という選択肢
PPは電子レンジ前提の標準素材として優れ、CPETはタフで高耐熱という強みを持っています。
しかし、電子レンジと高圧過熱蒸気という 二種類の「異なる熱の入り方」が同時に作用する複合加熱環境では、 従来素材ではカバーしきれない部分が出やすくなっています。
そこで新たな選択肢として注目されているのが PMP(ポリメチルペンテン) です。
PMPはポリオレフィン系の中でも特殊なポジションにあり、耐熱性・透明性・軽量性を兼ね備えることで、従来の弱点を補う素材として存在感を高めています。
PMPの基本特性
PMP(ポリメチルペンテン)は、「透明性 × 耐熱性」の両立を高いレベルで実現している素材です。
以下の特性は、複合加熱環境での技術検証において特に有利に働きます。
- 高い耐熱性
融点230〜240℃。100℃超の蒸気でも形状保持しやすい性能。 - 軽量性
密度0.83 g/cm³と樹脂の中でも最軽量クラス。 - ガラスのような透明性
沸騰・泡立ち・蒸気の回り方など内部挙動を外部から確認できる。 - マイクロ波透過性(電子レンジ適性)
加熱ムラが出にくく、実験用ラボウェアとしても実績がある。 - 高温蒸気への耐性
オートクレーブにも使われるほど蒸気・熱・水分に強い。
こうした特性から分かるように、PMPは単なる“耐熱樹脂”ではありません。
電子レンジの「内部点加熱」と、過熱蒸気の「外側からの面+圧力加熱」という、性質の異なる二重負荷に素材レベルで適性を持つという点が、大きな特徴です。
さらに、透明性が高いため複合加熱中の挙動を外から「見える化」でき、食品メーカーが求める「加熱条件の最適化」「開発段階での検証」を実施しやすいという実用的メリットもあります。
このように、PMPは複合加熱という新しい課題に対して「なぜ適合するのか」を、素材特性そのものが説明している素材と言えます。
当社では、PMPを以下のような 耐熱+透明+水密性 が求められる領域で扱っています。
- 医療・分析装置向け透明タンク・カバー
- 高温洗浄液や蒸気に触れる流路部品
- 内部の挙動を観察したい試験容器
- 溶接・切削・曲げを組み合わせた透明構造部品
これらの実績により、「電子レンジ+過熱蒸気に耐える透明トレー」という今回の開発テーマにおいて、PMPが候補素材として挙がったのは技術的にも自然な流れと言えます。
電子レンジ+高圧過熱蒸気に対するPMPの利点
電子レンジは「内部から一点に強い熱が入る加熱」であり、過熱蒸気は「外側から全面に一気に熱と圧力がかかる加熱」です。
この二つが同時に作用すると、トレーには通常よりも大きな負荷がかかることになります。
そこで本章では、こうした複合加熱環境において、PMPがどのように役立つのか をポイントごとに整理して解説します。
複合耐熱性:高温・高圧に余裕を持って耐えられる
電子レンジでは局所的に高温点ができ、過熱蒸気では外側から全面に熱と圧力が加わります。
PP はこの「一点集中の加熱」と「全面加圧の高温負荷」が重なる条件では設計余裕が小さく、変形につながりやすい傾向があります。
PMP は融点が 230℃ 以上と耐熱余裕が大きく、二種類の加熱方式が同時にかかっても形状を保ちやすい素材です。
複合負荷に対して「耐え切る」素材を選びたい場面で、有力な選択肢となります。
- 一点の急激な加熱と全面的な高温・高圧負荷に対応
- PP が苦手とする複合ストレス下でも形状を保持
- 高温帯の余裕が大きく、加熱設計を安定化しやすい
形状安定性:反り・たわみを抑えやすい
複合加熱では、反り・たわみ・フランジ部の浮きなど、トレー全体に変形が生じやすくなります。
PMP は耐熱性と剛性のバランスが良いため、適切な肉厚設計やリブ構造を組み合わせることで、加熱後の変形を抑制できます。
この特性を活かすことで、加熱後も形状が安定するトレー設計が可能になり、汁漏れやシール不良といった実工程でのトラブルを減らすことにつながります。
- 反り・たわみ・局所伸びなどの変形を抑制
- フランジ部の浮きやシール不良を軽減
- 加熱後も安定形状を維持するトレー設計が可能
視認性:加熱挙動を外から確認しやすい
電子レンジでは沸騰や泡立ち、過熱蒸気では蒸気の回り込みが品質に影響します。
PMP はガラスに近い透明性があるため、加熱中の挙動を外側からそのまま観察できる点が特徴です。
これにより、沸騰の立ち上がりや泡の動き、蒸気の流れ、過加熱の兆候などを開発段階で可視化できます。
実際に今回、大手冷凍食品メーカー様が「技術開発目的」で PMP トレーを依頼された背景にも、「見ながら検証できるトレー」が必要だったという明確なニーズがありました。
透明性が、開発検証そのものを支える機能として活きる点が、PMP の大きな強みです。を支える機能となる──
これが、PMPが選ばれる理由のひとつです。
- 加熱中の内部挙動をリアルタイムで観察可能
- 加熱条件の最適化や検証作業が容易
- “見ながら検証したい”技術開発用途で採用実績
工程適合性:製造工程〜家庭加熱まで一つのトレーで対応
食品工場によっては、充填 → シール → 高圧蒸気工程 → 冷却 → 出荷 → 家庭で再加熱といった流れを、一つのトレーで完結させたいニーズがあります。
PMP は電子レンジ、蒸気工程、再加熱と、複数の高温プロセスに一枚で対応できるため、工程統合・在庫削減・検証効率化といったメリットが得られます。
- 複数の高温工程を一つのトレーで対応可能
- 製造効率・在庫管理の合理化につながる
- 量産前の評価から実装工程まで扱いやすい素材
複合加熱で生じたボトルネックとPMP選択の背景
今回、フジワラケミカルエンジニアリングでは、大手冷凍食品メーカー様より 「技術開発目的」で PMP トレーの製作依頼 をいただきました。
背景には、複合加熱化が進む中で、従来素材が原因となって生じていた いくつかの「ボトルネック」 がありました。
- PPトレーでは複合加熱下で変形し、条件再現性が取りにくい
フランジの浮き、底のたわみ、白濁、局所的なクラックなどが発生し、油分・とろみの強いメニューでは 温度分布の再現性が得られず、開発が安定しない状況が続いていました。 - CPETは耐熱性は高いが、挙動が見えず条件最適化が難しい
CPET はタフだが不透明なため、沸騰・蒸気の回り方・泡立ちなどが全く見えず、加熱条件を詰めるための評価プロセスが長期化するという課題がありました。 - 複合加熱を評価できる「中間領域の素材」が存在しなかった
電子レンジ前提の PP と、オーブン寄りの CPET。どちらも 電子レンジ × 高圧蒸気 という二重負荷を評価するには不向きで、素材そのものが 開発工程のボトルネック になっていたのです。
こうした状況からメーカー様は、
- 複合加熱に耐えること
- 加熱挙動を外から観察できること
の両立が図れる素材として、PMP に注目されました。
当社では、メーカー様の評価条件に合わせて、
- 板厚・リブ構造を最適化した PMP トレー試作
- 実加熱条件下での反り・変形評価
- 電子レンジ加熱時の局所過熱の可視化試験
- メニュー特性(油分・水分量・粘性)に応じた検証治具の製作
などを行い、開発を阻んでいたボトルネックの解消を支援しています。
まとめ(要点)
冷凍食品・チルド食品の加熱環境は、電子レンジだけでなく 高圧過熱蒸気を組み合わせた複合加熱 が一般化しつつあります。
この二重負荷によってトレーには、従来以上に 耐熱性・形状安定性・検証性 が求められます。
PPは電子レンジ用途として優秀であり、CPETは高耐熱・高バリアのタフな素材ですが、いずれも「電子レンジ × 高圧過熱蒸気」の複合負荷ではボトルネックが生じやすいことが分かりました。
その中で PMP は、
- 高い耐熱余裕(電子レンジと蒸気の双方に対応)
- 反り・たわみを抑えやすい形状安定性
- 加熱挙動を外から確認できる透明性
- 製造工程〜家庭加熱まで一つで対応できる工程適合性
といった特性を併せ持ち、複合加熱向けの 「第三の選択肢」 として位置づけられます。
また、実際に、大手冷凍食品メーカー様の開発工程で PMPが試験トレーとして採用された事例は、複合加熱における素材選定の方向性を示す重要な根拠といえます。
これからの食品トレー開発では、「耐える」「見える」「安定する」 という三つの要素を満たす素材として、PMP の重要性はさらに高まっていくでしょう。
PMPトレー開発をご検討中のメーカー様へ
── フジワラケミカルエンジニアリングが提供できること
複合加熱に対応した食品トレーの検討・試作をお考えの際は、フジワラケミカルエンジニアリングが 開発段階から実加熱評価まで 一貫して支援いたします。
- PMPの素材選定サポート
電子レンジ・過熱蒸気・再加熱など、加熱条件に合わせて最適なグレードや板厚をご提案します。 - 試作・少量生産への対応
開発フェーズに必要な少ロット試作や、形状検証・シール検証用サンプルにも柔軟に対応します。 - 加熱を踏まえた形状・構造設計
反りを抑えるリブ構造、フランジ形状、膨張逃がし構造など、複合加熱後の形状安定性を高める設計をご提案します。 - PP・CPET・紙トレー等からの比較評価
従来素材との挙動比較や、実加熱条件に基づく評価試験も対応可能です。
PMP トレーの検討にあたり、「どう使うか」「どこまで耐えるか」 を一緒に確認しながら、最適なトレー設計をご提案します。
複合加熱向けトレーの開発でお困りのメーカー様は、どうぞお気軽にご相談ください。

