【産業機械メーカーのための素材選定ガイド①】ポリアセタール(POM)が選ばれる理由とは?

近年、産業機械業界では、軽量化・静音化・メンテナンス性の向上・コスト削減などを目指し、金属から樹脂素材への切り替えが急速に進んでいます。そんな中、特に注目されているのがポリアセタール(POM)です。本稿ではPOMが産業機械メーカーに選ばれる理由を徹底解説します。
なぜ今、POMなのか?
産業機械の部品設計は高度化する一方で、コスト競争力の維持も求められています。かつては「金属一択」の時代もありましたが、軽量化やコストダウンが強く求められる現代では、樹脂材料の可能性が大きく広がっています。
その中で、ポリアセタール(POM)は「強度」「耐摩耗性」「寸法安定性」「加工性」のバランスが絶妙であり、特に中精度から高精度の機械部品に対して「ちょうどよい性能」を発揮することで評価されています。さらにPOMは、量産性が良く安定供給が可能なため、製造現場のニーズにも応えられる素材として産業機械メーカーから支持されています。

杉本 剛久
例えるなら、 “軽さ・強さ・滑らかさ” のバランスを持つスポーツ万能選手。多用途で活躍できる素材です。
POMの4大性能とは?
POMが産業機械メーカーで幅広く採用される理由がわかったところで、それでは具体的に、POMの特性をより深く理解するため、「精度」「耐摩耗性」「加工性」「耐薬品性」の4つの特徴を掘り下げて見ていきましょう。
- 寸法安定性
POMは吸水率が極めて低く(0.2%以下)、環境変化に伴う寸法変化が少ない素材です。ギアやブッシュなど、寸法変動が部品の性能を左右する箇所で特に威力を発揮します。 - 高い自己潤滑性・耐摩耗性
POMの表面は滑らかで摩擦係数が低いため、グリースやオイルなどの潤滑剤を使用しなくても摩耗が非常に少なく、清潔さも保てます。摺動部品に特に適しています。 - 優れた加工性
POMは切削加工性が高く、薄肉や複雑形状でも精度よく仕上げることが可能です。射出成形の歩留まりもよく、試作から量産まで一貫して扱いやすいのも魅力です。 - 耐薬品性・耐熱性のバランス
POMはアルカリ性洗浄剤や油脂類に対して良好な耐性を持ち、一般的な産業環境で十分な耐久性を発揮します。また、100~120℃程度の温度環境でも使用可能で、広い用途に適応できます。

杉本 剛久
例えるなら、 “ワックス済みのそり” のような滑らかさで動く素材です。
現場で活きる!POMの実用例
産業現場では以下のような部品にPOMが広く使われています。
- ギア・カム・スペーサー・ブッシュ
- 搬送装置のローラー
- スライドガイドやストッパー
- 潤滑不要のスライダー

杉本 剛久
お客様からは『金属ほど重くなく、ナイロンほど寸法変化の不安もないので安心して採用できる』と評価いただいています。実際にトラブルも少なく、設計段階から現場まで喜ばれています。
他素材との違いがわかる比較
産業機械における樹脂素材の選定では、性能・加工性・コストのバランスを考慮することが重要です。以下の表で、代表的なエンジニアリングプラスチック(エンプラ)とPOMの特性を比較しました。
特性/素材 | POM | PA(ナイロン) | PC(ポリカ) | PBT | PEEK |
---|---|---|---|---|---|
寸法安定性 | ◎ 吸水少 | △ 湿気に弱い | ◎ | ◎ | ◎ |
摩耗性 | ◎ 長寿命 | ◎ 滑りやすい | △ やや脆い | 〇 | ◎ |
加工性 | ◎ 切削・成形良好 | 〇 | △ 成形に注意 | 〇 | △ 難易度高 |
コスト | ◎ 手頃 | ◎ | △ やや高価 | △ | × 超高価格帯 |
上記の比較表からも明らかなように、POMは精度・耐摩耗性・加工性・コストの観点で優れた総合力を持ち、バランスの良さで多くの場面で第一選択肢となり得ます。

杉本 剛久
POMは信頼性と扱いやすさの中間に位置する最適素材です。
設計・調達での導入ポイント
POMを導入する際には、部品の役割や使用条件を明確にすることが重要です。金属部品の代替としてギアやスライダーなどの摺動部品から試験導入を始めるのが効果的です。試作段階から量産まで対応しやすく、設計自由度も高いため、設計者の創意工夫を活かした最適化が図れます。また、コストパフォーマンスに優れ、歩留まり改善にもつながります。
- ギアやスライダーなど摺動部品から試験導入を
まずは、金属部品を使用しているギアやスライダーなど、摩擦や摩耗が性能に直結する部品からPOMへの切り替えを試みるのが効果的です。POMの持つ自己潤滑性や耐摩耗性が特に生かされるため、性能向上とメンテナンス軽減の効果を実感できます。 - コストパフォーマンスが高く、製造歩留まりも改善
POMは比較的低価格で調達が容易である上、射出成形や切削加工の安定性が高く、製造工程での不良率が低下します。これにより、トータルコストを削減しながら品質を安定させることが可能です。 - 試作から量産まで対応可能で設計自由度が高い
POMは加工が容易であるため、試作段階での迅速な設計変更や改善を柔軟に行えます。また、量産化の際にも同じ材料で一貫して加工できるため、設計の自由度が増し、市場投入までの時間短縮にも寄与します。
機能性POMの世界
標準的なPOMに加え、さまざまな機能を持たせた特別仕様のPOMが各分野で活用されています。例えば、静電気を防止する帯電防止グレード、より滑らかで耐摩耗性を高めた潤滑グレード、高剛性のガラス繊維強化グレード、電装部品向けの難燃グレード、食品装置に対応した衛生グレードなどがあり、使用環境に応じて最適な機能を追加できます。
機能性 | 特徴・用途 |
---|---|
帯電防止 | 静電気防止、半導体・粉体搬送装置向け |
潤滑グレード | PTFEなど配合、より滑らかで摩耗しにくい |
ガラス繊維強化 | 高剛性・高耐荷重部品向け |
難燃グレード | 電装部・火気周辺の部品に使用 |
食品衛生対応 | 青色識別・FDA/EU規格準拠、食品装置向け |

杉本 剛久
必要に応じて「滑る・強い・燃えない・衛生的」などの機能を追加可能。
たとえるなら、POMは “ベース素材” 、機能性グレードは “オーダーメイドスーツ” 。
まとめ:POMの導入で得られる効果
ポリアセタール(POM)は、高精度な部品設計において求められる「寸法安定性」「低摩耗性」「加工の容易さ」を高次元でバランスよく備えています。また、設計の自由度が高く、軽量化や静音化を実現しながらコスト削減にも貢献します。機能性グレードを適切に選定することで、さらに高い安全性や衛生性、性能を追求することも可能です。産業機械メーカーにとって、POMはまさに理想的な選択肢と言えるでしょう。
- 「高精度・低摩耗・手間なし加工」の三拍子がそろっている
- 設計の自由度が増し、軽量・静音・コスト削減にもつながる
- 機能性POMを活用すれば、より高い安全性・性能・衛生面の確保も可能

杉本 剛久
【最後にひと言】
鉄では過剰、ナイロンでは不安。POMはその “ちょうどいい” 答えを出してくれる素材です。