フジワラケミカルエンジニアリングのPVCリサイクルへの挑戦:未来を変える現場の取り組み

2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)以降、世界的に循環型社会への移行が加速しています。特に海洋プラスチック問題が注目され、2019年のG20大阪サミットでは「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有され、2050年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロにする目標が掲げられました。
日本国内では2022年4月に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、企業によるプラスチック使用の合理化や、プラスチック廃棄物の分別・リサイクルが強く求められるようになりました。しかし実態としては、国内のプラスチックリサイクル率は約25%(2023年度統計)にとどまり、その多くはサーマルリサイクル(熱回収)であり、マテリアルリサイクル(材料再生)の割合はさらに低いのが現状です。
フジワラケミカルエンジニアリングでは、プラスチック=環境問題と捉えられる時代においても、正しい分別とリサイクルルートの活用を通じて、プラスチックは循環型社会に貢献できる素材だと考えています。本稿では、当社で使用比率の高いPVC(塩化ビニル樹脂)に着目し、リサイクルの難しさと、当社が実践している分別・粉砕・出荷までのプロセスを解説します。さらに「出さない仕組み」「再使用の工夫」も加え、フジワラケミカルエンジニアリングが目指す、プラスチック加工会社としての持続可能な未来へのアプローチを紹介します。
プラスチックリサイクルの基礎知識
プラスチック廃棄物の増加が世界的な環境問題となる中、効果的なリサイクル手法の理解と実践が企業にとって重要な課題となっています。ここではプラスチックリサイクルの基本的な考え方から最新の動向まで解説します。
プラスチックリサイクルの種類
プラスチックのリサイクル方法は、主に以下の4種類に分類されます。
- マテリアルリサイクル:物理的に処理して原料として再利用
- ケミカルリサイクル:化学的に分解して原料化
- サーマルリサイクル:焼却によるエネルギー回収
- 生分解:微生物による分解(生分解性プラスチックの場合)
理想的にはマテリアルリサイクルが望ましいとされていますが、プラスチックの種類や状態によって適した方法が異なります。特にPVCのような複雑な組成を持つプラスチックは、高品質なマテリアルリサイクルが難しいとされてきました。
世界のプラスチック処理の変化
かつて日本を含む先進国は、プラスチック廃棄物の多くを中国などの海外に輸出していましたが、2017年末の中国による「国家剣・青天行動」(廃棄物輸入禁止政策)以降、国内処理の必要性が急速に高まりました。 この政策は、環境および人の健康保全のため、廃プラスチックを含む廃棄物原料の輸入を禁止するものでした 。
さらに、2019年のバーゼル条約第14回締約国会議(COP14)において、リサイクルに適さない汚れたプラスチックごみを規制対象に追加する改正案が決議され、2021年1月1日から施行されました。 これにより、汚れたプラスチックごみを輸出する際には相手国の同意が必要となり、各国での自国内処理体制の構築が不可避となっています 。
このような背景から、企業には自社内でのプラスチック管理とリサイクルルートの確保が強く求められるようになりました。
なぜPVCのリサイクルは難しいのか?
PVC(ポリ塩化ビニル)は優れた成形性や耐薬品性、コストパフォーマンスの高さから、建材や電線被覆、医療機器など産業用途で広く使われています。同時に、以下の特性から他のプラスチックと比較して、環境負荷が高いと指摘されることもあります。
- 塩素を含むため焼却時に塩化水素ガスが発生する可能性
- 軟質PVCに含まれる可塑剤(フタル酸エステル類など)の環境・健康影響への懸念
- 重金属系安定剤を使用する製品の存在(現在は代替が進行中)
リサイクルの観点では以下の課題があるため、再資源化が容易ではありません。
- 可塑剤・安定剤・添加剤が製品ごとに異なり、性質が不安定
- 異素材(PPやPE)との混合時に再生品質が低下
- 焼却時に塩素系ガスが発生する懸念があり、国内での処理体制が限られる
- 着色製品が多く、リサイクル品の用途が限定される
- 硬質PVCと軟質PVCの分離が困難
このような背景から、PVCは「リサイクルが難しい素材」として扱われがちですが、だからこそフジワラケミカルエンジニアリングは現場から工夫を重ね、資源化の仕組みを作る価値があると考えています。
PVCの環境影響と国際的な規制動向
ヨーロッパでは2000年代初頭より、電気・電子機器における特定有害物質の使用を制限するRoHS指令(2002/95/EC)が導入され、PVCに含まれる可塑剤(フタル酸エステル類)や鉛などの重金属の使用が制限されています。 これにより、PVCの使用が制限され、代替材料への移行が進んでいます。
一方、日本ではPVCの耐久性や経済性の観点から、建材や産業資材としての使用が継続されています。 PVCはその耐久性や経済性から、建築資材や産業用途で広く使用されています。
塩ビ工業・環境協会によれば、国内のPVC生産量は年間約170万トンであるのに対し、マテリアルリサイクル率は約18%程度にとどまっています。 この数字を改善するためには、個別企業の現場レベルでの取り組みが不可欠です。
フジワラケミカルエンジニアリングが実践するリサイクルへの道
フジワラケミカルエンジニアリングでは、使用プラスチックの約90%がPVCという状況の中、リサイクル率は現在約50%を実現しています。これは業界平均を大幅に上回る数字であり、日々の地道な取り組みの成果です。
マスキングテープの除去から始まる
加工工程で使用するマスキングテープは、そのままではリサイクルに適さないため、手作業での除去を実施しています。PVC加工において、表面保護や塗装マスキングのために使用される粘着テープは、リサイクル工程で溶融時に不純物として品質低下の原因となります。
しかし現実的には、以下のような理由から完全な剥離は困難です。
- 加工中に圧着されたテープが剥がれにくい
- 凹凸面への貼付箇所は、きれいに取り除けない
- 作業負担が大きく、時間的コストがかかる
- テープ接着剤の残留が完全に防げない
これが、PVCリサイクル率が50%にとどまっている大きな理由の一つです。
フジワラケミカルエンジニアリングでは、この課題に対してマスキングテープの使用方法の工夫や、剥離作業の効率化に取り組んでいます。
網パレットによる材質別の管理
フジワラケミカルエンジニアリングでは、回収したPVC端材を専用の網パレットに保管しています。従来は段ボール箱や袋での保管が主流でしたが、内部確認が難しく誤混入が発生していました。透視性の高い網パレットの導入により、視覚的な品質管理が可能になりました。
ここで重要なのは「材質ごとの分別管理」です。
- 材質表示ラベルを貼付
- PPやPEなど他素材が混ざらないよう注意
- 再使用不可な小さな端材や混合された粉は除外
「混ぜない」という地道なルールが、リサイクルの品質を支えています。 この取り組みによって、当社のリサイクル材は品質の安定性が確保され、リサイクル業者からの信頼も得ています。
海外でのリサイクル再資源化
粉砕後のPVCは、フジワラケミカルエンジニアリングの提携リサイクル業者を通じて海外へ輸送され、以下のような工程で再資源化されています。
粉砕後のPVCから他の素材や不純物を取り除き、粒の大きさを均一化して再生加工の準備を整えます。
回収したPVCを溶かして細かい粒状のペレットに再形成し、再利用可能な素材として加工します。
再ペレット化されたPVCを建材パネルや敷板などの製品に成形し、新たな用途で再利用されます。
特にインド国内では政府から廃プラスチック輸入の許可を得た再生業者が複数存在し、日本では処理困難な素材も有効活用されています。国内では処理困難なPVCも、専用設備とノウハウを持つ海外業者との連携で、再資源として再生されています。
リサイクルができない「残りの50%」とその理由
フジワラケミカルエンジニアリングの現場努力により約半分のPVCはリサイクルできていますが、残りは現実的に廃棄処理されています。その理由は以下の2点です。
- マスキングの剥離が不完全なもの:除去不能な場合は再資源化できず除外
- 小片・切粉・集塵粉:加工くずや微細粒子は他樹脂との混合が避けられず、分別不可
これらは材質判別や異物除去が困難なため、リサイクル対象から外れます。特に微細な粉じんは表面積が大きく、酸化劣化が進みやすいため、リサイクル品質に悪影響を及ぼします。
フジワラケミカルエンジニアリングでは、こうした難処理物に対しては、国内の産業廃棄物処理業者と連携し、環境負荷の少ない方法での適正処理を心がけています。また、処理技術の進歩や新たなリサイクル手法の登場に常に注目し、リサイクル率のさらなる向上を目指しています。
ケミカルリサイクルへの挑戦
近年注目されている技術として、PVCの脱塩素化によるケミカルリサイクルがあります。塩素を化学的に分離・回収し、残りの炭化水素部分を化学原料として活用する方法で、従来の物理的リサイクルでは処理できなかった混合物や汚染物にも対応できる可能性があります。
フジワラケミカルエンジニアリングでは研究機関と連携し、こうした先進技術の導入可能性も検討しています。
出さない工夫と再使用の仕組み
フジワラケミカルエンジニアリングでは、リサイクル以前に「廃棄物を出さない・再使用する仕組み」も同時に整備しています。環境負荷低減の観点では、廃棄物の発生抑制(Reduce)が最も重要であり、次いで再使用(Reuse)、そしてリサイクル(Recycle)という3Rの優先順位を意識した取り組みを行っています。
板取段階からの歩留まり最適化
設計段階から「捨てない」意識を組み込むことで、廃棄物自体の発生を最小限に抑えています。
- 板取前に事前連絡で端材が出ないような配置を設計
- 板取ソフトを使用し、最も歩留まりの良い切断パターンを自動算出
- 社内共有し「出さない加工」を習慣化
- 受注製品の寸法最適化提案(顧客との協議による無駄の削減)
- 複数の小ロット製品を組み合わせた効率的な生産計画
端材の再使用と棚割り管理
端材が出た場合でも、すぐには廃棄せず以下のように再使用を推進。
- サイズ・材質ごとの再使用基準を設定
- 棚割りによる整理と、誰でもわかる配置管理
- 「使える端材」を在庫リスト化し、不必要な材料発注を削減
フジワラケミカルエンジニアリングの現場では使い切る意識が高まり、資源の有効活用が習慣化しています。「端材は資源」という考え方が社内に浸透し、新たな価値創造にもつながっています。
フジワラケミカルエンジニアリングの挑戦:未来を変える姿勢
フジワラケミカルエンジニアリングでは、「PVCはリサイクルが難しいから仕方ない」という常識にとどまらず、できる範囲から一歩ずつ取り組みを続けています。環境問題は一朝一夕に解決するものではなく、継続的な小さな改善の積み重ねが重要だと考えています。
- リサイクル率は50%以上に
- 廃棄物コストの削減
- 社内の環境意識が根づく
- 顧客からの信頼向上にも貢献
「難しいから挑む」その姿勢こそが、次の未来をつくる第一歩だとフジワラケミカルエンジニアリングは信じています。
まとめ:フジワラケミカルエンジニアリングが目指す持続可能な社会への貢献
PVCのリサイクルは、確かに簡単ではありません。しかし、分別・管理・工程の工夫を積み重ねることで、確実に再資源化の道は開かれます。フジワラケミカルエンジニアリングでは、プラスチック加工会社としての責任を果たすため、以下の三本柱を実践しています。
- 出さない工夫
- 再使用の仕組み
- リサイクルの精度向上
この三本柱を現場から実践することで、私たちは「環境に配慮する現場」としての責任を果たしていきます。
SDGsが掲げる「持続可能な生産と消費」の実現は、大企業だけでなく、フジワラケミカルエンジニアリングのような中小企業の日々の取り組みにもかかっています。一企業としての取り組みは小さくとも、それが業界全体に広がれば大きな変化となります。
PVCという「難しい素材」に真摯に向き合い、諦めずに挑戦し続けることで、フジワラケミカルエンジニアリングは持続可能な社会の構築に貢献していきたいと考えています。