プラスチック加工における接着加工の基礎:有機溶剤を用いた強固に接合する接着技術

プラスチック製品の組み立てには、部品同士を接合するために接着剤が広く使われます。ただ、一口に「接着」と言っても、「一般的な接着剤」による接着と「有機溶剤」を使った接着の2種類が存在し、樹脂の種類に応じて適切な方法を選ぶ必要があります。本記事では、プラスチック接着の基本的な仕組みと、各材料に適した接着方法について専門的な内容を交えつつ、分かりやすく解説します。

一般的な接着剤とプラスチック用接着剤(有機溶剤)の違い

一般的に「接着剤」と聞くと、木工用ボンドや瞬間接着剤(アロンアルファなど)を想起される方が多いかもしれません。しかし、プラスチック加工産業においては、素材同士を強固に一体化するために、有機溶剤を用いた接着加工が主流です。

一般的な接着剤の仕組み

接着剤を素材表面に塗布し硬化させることで、素材同士を「糊で貼り合わせる」ようなイメージでつなぎ止めます。例えば、木工用接着剤の場合、水分が蒸発することで主成分のポリ酢酸ビニル樹脂が硬化し、木材の繊維に絡み合うことで接着されます。

プラスチック用接着剤(有機溶剤)の仕組み

プラスチック同士の接合には、有機溶剤(アセトンやメチレンクロライドなど)を用いた接着加工が行われます。溶剤がプラスチックの表面を一時的に溶解させ、溶剤が蒸発すると、素材が一体化し、元々一つの成形品だったかのような高い接合強度が得られます。
このため、一般的な接着剤よりも強度が高く、気密性・水密性に優れた接着加工が実現できます。ただし、接着加工が可能な樹脂は限定されるため、各プラスチック素材に適した方法を選定する必要があります。次の章では、その代表的な素材を解説します。

接着加工可能な材料

当社では、以下のプラスチック素材に対して有機溶剤を用いた接着加工を行っています。
これらは適切な溶剤を用いることで元の素材強度に匹敵する強固な接合が可能となります。

  • PVC(ポリ塩化ビニル)
  • ABS(アクリロ二トリルブタジエンスチレン)
  • PMMA(アクリル)
  • PC(ポリカーボネート※接着非推奨(強度が比較的低い)
  • PET(ポリエチレンテレフタレート)

その他のプラスチック素材は溶剤での溶解が難しいため、当社では有機溶剤による接着加工は行っておりません。
例えば、PP・PE・PVDF・PMPについては、当社で溶接実績があり、溶接前に仮組みをしますが、接着剤を使わずに、母材どうしを熱風によって一時的に接合する仮組みをしています。当社では「仮付け」と呼んでいます。

仮付けの様子
仮付けの様子

各材料に使用する接着剤(有機溶剤)の選定

各プラスチック素材に対して使用する具体的な溶剤は、当社独自のノウハウを含むため、以下、公開可能な範囲で代表的な使用溶剤の例を示します。

PVC

主にテトラヒドロフラン(THF)やメチルエチルケトン(MEK)を含む接着剤が使われます。
用途により板用と管用があり、板用は低粘度で扱いやすく、管用は高粘度で接合強度が非常に高い特徴を持ちます。

ABS

主にジクロロメタン(塩化メチレン,DCM)を使用します。

PMMA(アクリル)

ジクロロメタン(塩化メチレン,DCM)や重合接着剤などが使われています。 
PMMA(アクリル)の接着方法には、有機溶剤を使用する溶剤接着と、素材と同じ原料であるMMAを化学反応(重合)させる重合接着があります。
水槽など外観と強度を求められる用途では、重合接着が行なわれることが多く、溶剤接着より加工の難易度が高いとされています。

PC

ジクロロメタン(塩化メチレン,DCM)が使用されますが、接着強度が他の素材に比べ低いため、場合によっては曲げ加工やビス止め固定など、接着以外の方法が推奨されます。

PET

主にジクロロメタン(塩化メチレン,DCM)を使用します。

接着剤(有機溶剤)の塗布方法と道具の使い分け

以下、接着剤(有機溶剤)の代表的な塗布方法とそれぞれの特徴を解説します。

刷毛(ハケ)・筆

接着面が狭い箇所や継手の接合には、刷毛や筆を使用します。手軽で扱いやすい方法ですが、接着面積が広く外観美が求められる場合には不向きです。

刷毛(ハケ)・筆による接着

注射針(注射器)

接着面が広く注入量が多く必要なものや、透明材料など広い接合面の外観基準が求められる場面に使用します。
注射針を用いることで大量注入が可能になりますが、注入量が多すぎると一部がはみ出して曇りの原因などになるため、必要最小限の量を少しずつ流し込む技術が求められます。また、液だれを防ぐためマスキングテープによる養生などの工夫が求められます。

注射針による接着

外観品質と仕上がりへの要求

半導体業界において樹脂部品(特に透明材)の接着では、機能的な強度に加え、外観品質への高い評価基準が存在します。気泡の混入や接着剤のはみ出しなどはほぼ許容されず、仕上がりの美しさと清潔さが厳しく求められます。当社では半導体業界向けに、高度な要求に応えるノウハウと実績を長年積み重ねています

まとめ

本コラムでは、プラスチック加工における接着技術の重要性と、有機溶剤を用いた接着加工の特徴について詳述しました。各プラスチック素材に適した溶剤の選定や塗布方法、外観品質の基準クリアなどが重要な要素となります。当社は今後も、プラスチック加工技術の進歩に合わせ、さらなる品質向上を目指してまいります。接着加工やプラスチックに関するご相談・ご質問などございましたら、お問い合わせフォームなどによりお気軽にお問い合わせください。