スマート農業の流体設備設計と保守性向上:タンク・配管の構造設計とプラスチック加工技術

スマート農業の普及に伴い、潅水や養液制御システムの高度化が進んでいます。水や養液の安定供給は、植物の成長に直結する重要な工程であり、適切な流量・温度・濃度・タイミングの管理が求められます。こうした制御を支える設備の中でも、タンクや配管といった「流体を取り扱う構造部」は、見過ごされがちですが、設備の信頼性と作業性に大きく関わる要素です。

本コラムでは、潅水・養液制御設備におけるタンクと配管の設計ポイントについて、フジワラケミカルエンジニアリングのプラスチック加工技術を活かした提案をご紹介します。私たちはまだ農業分野での実績はありませんが、食品・医療・半導体といった流体制御の厳しい分野で蓄積してきた知見をもとに、スマート農業における新たな価値提供を目指しています。

潅水・養液設備に求められる構造設計の視点

潅水や養液の制御技術は、植物の生育に必要な水分や栄養素を適切な量とタイミングで供給することで、品質の安定化や収量の最大化に寄与する重要な要素です。施設園芸や人工光型植物工場などのスマート農業では、EC(電気伝導度)やpHのセンサー、タイマー制御、循環ポンプといったシステムが組み合わさり、高精度な流体管理が求められています。

これらの機器を支えているのが、タンクや配管といった「構造部」です。流体の通過・貯留・混合・排出を担うこれらの構造物の信頼性や清掃性は、設備全体の性能と運用効率を大きく左右します。たとえば、液漏れの起きやすい継手構造や清掃しづらい複雑な内部形状は、制御の乱れやトラブルの原因となります。

こうした背景のなかで、プラスチック素材の活用が注目されています。プラスチックは、軽量・耐薬品性・成形自由度に優れており、屋外環境や養液の腐食性に対しても高い適応性を持っています。実際に、食品・医療・半導体分野では、衛生性と耐久性の両立を求められる構造体として広く使われており、そのノウハウを農業設備にも応用することで、トラブルの少ない効率的な潅水・養液設備の実現が期待されます。

農業現場における流体制御の課題

施設園芸や人工光型植物工場においては、以下のような流体設備に関する課題がよく挙げられます。

よくある課題例
  • 養液の分離管理ができていない(pHやEC管理が不十分)
    配管系統の分離や濃度調整が適切でないことで、生育のばらつきや過剰・過少供給が発生します。
  • 配管内の詰まりや汚れによるトラブル
    とくに養液には肥料成分や藻類が含まれやすく、これらが配管に蓄積して流量を妨げる原因となります。
  • タンク残量や異物混入の目視確認が困難
    不透明なタンクでは残量の把握が困難であり、異物混入にも気づきにくくなります。
  • 設備が複雑化し、保守・洗浄が大変
    構成が複雑になるほど、メンテナンス性が低下し、洗浄の抜けや誤操作のリスクが高まります。
  • 水処理設備との接続部での漏れや破損
    異なる素材・接続方式の組み合わせが増えることで、接合部の不具合が起きやすくなります。

こうした課題の多くは、設備の「構造」そのものに起因しています。素材の選び方、接続方式、清掃性への配慮、視認性、施工の柔軟性等のすべてが、潅水・養液設備の運用に直結するからです。
特に、プラスチック素材を活かした構造設計は、これらの複合的な課題を一体的に解決する有効な手段となります。軽量で耐薬品性に優れ、自由な形状設計が可能なプラスチックは、既製品では対応できない現場課題に対して、柔軟かつ高機能な解決策を提供します。
次章からは、私たちフジワラケミカルエンジニアリングがご提案する具体的な技術アプローチを、素材別・構造別にご紹介していきます。

割れにくさと自由設計を両立するPEタンク・配管

潅水・養液設備に使用される構造材には、耐久性・安全性・加工性といった多面的な性能が求められます。その中でも、ポリエチレン(PE)は非常に優れた選択肢です。PEは軽量でありながら、衝撃や振動への耐性に優れ、屋外や高湿度環境においても経年劣化しにくいという特性を備えています。また、高温環境下での柔軟性もあり、割れにくく、扱いやすい点が農業設備に適しています。

私たちはこのPE素材に対して、単なる材料提供にとどまらず、「構造設計と加工技術の融合」によって、より高機能で現場に最適化された潅水・養液設備を提案しています。

PEタンク・配管による構造上の利点
  • 押出し溶接と溶着による自由設計
    接合部を高強度かつ一体化でき、従来のボルト締結や接着剤に比べて液漏れのリスクを大幅に軽減します。
  • 排出口や傾斜・点検口のカスタマイズ対応
    排液の流れを自然に促す勾配設計や、点検・清掃のしやすい位置への開口部設置など、運用視点に基づいた構造が可能です。
  • 湾曲・接続・分岐部を一体成形し、液漏れを抑制
    多点接合を減らし、メンテナンス箇所を集約することで、日常の点検・管理の負荷も軽減します。

このように、PE素材の特性と当社の加工技術を組み合わせることで、既製品の制約に縛られない柔軟な設計が可能となり、農業現場の運用効率と安全性の両立に寄与します。

透明パイプ・特殊配管で視認性と機能性を確保

潅水・養液システムにおいては、流体の状態が「目に見える」ことがトラブル予防と安心運用に直結します。とくに配管内の詰まりや気泡、養液の通過状態などは、運転中の監視や日常点検で把握しておくべき重要な要素です。

そこで私たちは、透明素材や高機能樹脂を用いた特殊配管の設計・加工にも対応しています。目視確認を可能にしながら、耐薬品性や衛生性も確保した素材選定・構造提案を行っています。

視認性・衛生性を高める素材提案
  • 透明パイプで通液状態を可視化
    PVCやポリカーボネート製の配管を用い、液体の色・濁り・泡の発生などを運用中に目視で確認できるよう設計します。
  • PTFE配管で耐薬品性・耐光性・耐熱性を確保
    紫外線殺菌装置などと組み合わせる用途に最適で、養液の腐食性や熱負荷に対しても長期間の使用が可能です。

これらの構造は、初期設計段階で組み込むことで、後のメンテナンスやトラブル対処の容易さを高め、結果的にシステムの信頼性を底上げする要素となります。

洗浄性と保守性を高める構造工夫

スマート農業では、流体管理の精密さとともに、「日々の保守管理のしやすさ」も成功の鍵を握ります。養液や潅水設備におけるトラブルの多くは、清掃の手間や構造の煩雑さに起因しており、稼働を止めずに保守が行えるかどうかは、設計の段階から配慮すべき重要なポイントです。

当社では、洗浄性・保守性に優れた構造設計を標準として取り入れ、運用者の作業負担を最小限に抑える設計提案を行っています。

洗浄しやすさ・管理のしやすさを実現する工夫
  • 高圧洗浄に耐える補強設計
    長期間の使用でも変形しにくく、定期的な高圧洗浄にも対応します。
  • 自然勾配で排液をスムーズに
    タンク底部や配管内に適切な傾斜を設けることで、排出残留を防ぎ、清掃効果を高めます。
  • ヒンジ付きフタで清掃口の開閉を容易に
    作業時の安全性や時間短縮にもつながる、直感的な構造を採用しています。
  • 再組立しやすい配管接続
    部分的な交換・改修にも柔軟に対応できる設計により、設備の長寿命化に貢献します。

清掃性と保守性は、「設備の稼働時間」と「人の手間」の両方に影響するため、設計初期からの組み込みが極めて重要です。

ノックダウン・着脱式で現地施工に柔軟対応

農業施設においては、設置スペースや搬入経路が限定されているケースも多く、現地での施工・組立対応が求められます。こうした現場条件に適応するために、当社では「分割搬入→現地組立」という視点での設計提案を強化しています。

構造そのものをノックダウン(組立式)とすることで、現場の制約を超えた柔軟な設備導入が可能になります。

運搬・施工・メンテナンスを見越した対応例
  • パネル構成で大型タンクを分割搬入・現地溶接
    一体型では搬入できない構造も、パネル設計により、屋内設置や狭小地にも対応可能です。
  • 着脱式配管で一部のみ分解・交換が可能
    特定系統のみを分離してメンテナンスできるため、全体停止を避けながら保守作業が行えます。

このような構造工夫により、農業設備の導入・維持・拡張における「現場対応力」が大幅に向上します。

使用機器との連携性を高める配管設計

潅水・養液設備には、ポンプや電磁弁、流量センサー、pH調整機器など、多数の周辺機器が接続されます。これらとの連携設計は、流体設備の性能を発揮させる上で欠かせない要素です。

当社では、それらの機器に対応するフランジ接続部やブラケット取り付け部の製作も可能です。

機器との連携を円滑にする構造
  • センサー配線を保護するダクト構造
    断線や誤接続を防ぎ、配線メンテナンスの効率化にもつながります。
  • 異径対応の段付き配管
    機器ごとに異なる接続口径にも柔軟に対応し、変換アダプタ不要で設置できます。
  • ドレン排水・逆止弁部のスペース確保
    メンテナンス時のアクセス性を高め、安全性を損なわずに設備運用が行えます。

このように、配管そのものを「接続の母体」として設計することで、設置者・運用者の両方にとっての使いやすさを実現します。

まとめ

潅水や養液制御の現場では、単に「水や養液を運ぶ」だけでなく、精密な制御・視認性・清掃性・信頼性といった多様な要素が求められます。それらを支える構造部であるタンクや配管の「形」「素材」「つくり方」次第で、システム全体の運用効率や品質の安定性が大きく左右されるということは、これまでの各項目からも明らかです。

フジワラケミカルエンジニアリングでは、食品・医療・半導体といった極めて高い管理基準が求められる分野で実績を積んできた経験をもとに、スマート農業においても、単なる設備供給にとどまらない「構造設計からの支援」を重視しています。

今回ご紹介したように、私たちの技術は、

  • 現場ごとの施工条件に合わせた柔軟設計
  • 用途に応じた素材選定と溶接加工
  • メンテナンス性や安全性を考慮した一体構造

といった面でお客様の課題解決に貢献できると考えております。

スマート農業における設備設計に、自由度と安全性、そして清掃・保守・拡張性といった現場運用のリアルを取り入れたいとお考えの場合には、ぜひ当社の技術と知見をご活用ください。
構想段階からのご相談も歓迎しております。