プラスチックの寸法精度:金属と同じ公差が出せない3つの理由

── 熱膨張・吸湿・加工発熱の3大要因から、素材選定の実務ポイントまでを網羅

「金属と同じ公差で図面を書いたら、加工屋さんから電話がかかってきた」── これは、樹脂部品を初めて発注する設計者の方からよく聞く話です。
プラスチックの寸法精度は、金属とはまったく違う考え方が必要です。

本コラムでは、以下の3点を体系的に解説します。

  • 金属と同じ公差が出せない3つの理由(熱膨張・加工発熱・吸湿)の仕組み
  • 素材ごとの寸法安定性の違いと選定のポイント
  • 設計・発注時にトラブルを防ぐための実務チェックポイント

「なぜ樹脂は金属と同じ公差が出せないのか」「加工中に寸法が変わるのはなぜか」「ナイロンやPEEKの精度はどう違うのか」といった実務的な疑問に直接答える構成になっています。

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    「寸法精度」とは何か

    寸法精度とは、図面に指定した寸法に対してどれだけ正確に加工できるかを示す指標であり、「公差(許容される寸法誤差の範囲)」によって定義されます。

    ものづくりの世界では、図面に書かれた寸法どおりに部品を作ることが大前提です。
    たとえば「直径10ミリの穴」と図面に書かれていれば、実際に作られた穴も10ミリでなければなりません。

    ただし、現実の加工では、どんなに気をつけても完全にぴったり10ミリにはなりません。
    10.001ミリだったり、9.998ミリだったり、わずかな差は必ず生まれます。そこで図面には「公差」という許容範囲を書きます。
    「直径10ミリ、プラスマイナス0.05ミリまで許容」といった具合です。

    この公差をどれだけ小さく抑えられるかが、加工精度の指標になります。
    金属加工と樹脂加工では、そもそも実現できる精度の水準が大きく異なります。

    比較項目金属加工樹脂加工(一般)樹脂加工(当社)
    一般的な公差±0.01mm以下も可能±0.1〜±0.2mm程度最大±0.05mm
    精度の難しさ比較的安定環境・素材に左右されやすい条件管理で高精度を実現

    では、なぜ樹脂はそこまで精度を出せないのでしょうか。
    これには、樹脂という素材そのものが持つ「クセ」が深く関わっています。

    樹脂と金属、何がそんなに違うのか

    樹脂は「やわらかく、温度に敏感で、湿気にも反応する」という3つの性質を持ち、これが金属と比較した際の寸法精度の限界を生み出す根本的な原因です。

    それぞれの性質が、どのように精度トラブルにつながるのかを見ていきましょう。

    性質内容精度への影響
    やわらかさ刃物で押されると素材がわずかに逃げるミクロン単位の精度が出にくい
    熱に敏感温度変化で大きく伸び縮みする金属の約10倍の熱膨張係数(詳細は第3章)
    水を吸う湿度によって寸法が変化する素材があるナイロン等は0.1%以上変化することも(詳細は第5章)

    この3つの性質は、それぞれ独立した問題ではなく、組み合わさって精度トラブルを引き起こします。
    次章からは、特に影響が大きい「熱膨張」から順に掘り下げていきます。

    一桁違う「熱膨張」の世界

    樹脂の熱膨張係数は金属の約10倍で、1メートルの部品が10度上昇しただけで金属は0.1ミリ程度しか伸びないのに対し、樹脂は約1ミリも変形します。

    樹脂と金属の違いの中でも、もっとも大きいのが温度による寸法変化、つまり「熱膨張」です。
    ものは温度が上がると膨らみ、温度が下がると縮みます。これは金属でも樹脂でも同じですが、その変化の大きさが桁違いに違うのです。

    数字で比べると、その差は一目瞭然です。

    比較項目金属(一般)樹脂(一般)
    熱膨張係数約10×10⁻⁶/℃約100×10⁻⁶/℃
    金属比基準約10倍
    1mの部品が10℃上昇したとき約0.1mm伸びる約1mm伸びる

    1メートルに対して1ミリの変化は、肉眼でも気づくレベルです。
    「真夏のエアコンが効いていない倉庫」と「冬の寒い朝の検査室」では、それだけで寸法が大きく違ってしまいます。
    だから樹脂部品は、できるだけ温度が一定に保たれた環境で測定する必要があります。

    樹脂の中でも、素材によって熱膨張の大きさは異なります。
    用途に応じた素材選定が、精度管理の第一歩です。

    素材熱膨張係数(×10⁻⁶/℃)特徴
    ポリエチレン(PE)100〜200熱変形が大きい
    ポリプロピレン(PP)80〜100熱変形がやや大きい
    ナイロン(MCナイロン)80〜90吸湿も加わるため注意が必要
    POM(ジュラコン)100〜150寸法安定性は比較的良好
    PEEK40〜50熱膨張が小さく精密用途向き
    PPS40〜55熱膨張が小さく寸法安定性に優れる
    アルミニウム(参考)約23金属の中では大きめ
    鉄(参考)約12金属の基準値

    精度が求められる用途では、PEEKやPPSのように熱膨張が小さい素材を選ぶことが、寸法トラブルを未然に防ぐ第一歩になります。

    加工中の発熱という、もう一つの落とし穴

    樹脂は熱伝導率が低いため、切削加工中に発生した熱が局所にとどまり、「膨らんだ状態で削られ、冷えると縮む」という寸法誤差を生み出します。

    熱膨張は、外の気温の話だけではありません。加工中にも温度の変化は起こります。
    これが樹脂加工の難しさをさらに一段押し上げます。

    切削加工では、回転する刃物が素材を削り取るとき、必ず熱が発生します。
    金属と樹脂では、この熱の「逃げ方」がまったく異なります。

    比較項目金属樹脂
    熱伝導率高い低い(金属の1/100〜1/1000程度)
    熱の動き部品全体に拡散してすぐ冷える刃物が当たった箇所にとどまる
    加工中の状態均一な温度で削られる局所的に膨らんだ状態で削られる
    冷却後の状態寸法が安定膨らんでいた部分が縮み寸法がずれる

    この寸法ずれは、加工後に冷えてから初めて気づくケースが多く、後戻りができない点が特に厄介です。

    この現象を防ぐには、以下のような工夫が必要です。
    素材ごとに最適な条件があり、これは経験で身につけていくしかない部分です。

    加工発熱を抑えるための対策
    • 刃物の回転速度・送り速度の調整
    • 切削油や冷却空気による温度上昇の抑制
    • 素材ごとの最適条件の設定(経験ベース)

    「水を吸う」素材たち

    ナイロン(MCナイロン)に代表される吸湿性樹脂は、湿度の変化だけで0.1%以上寸法が変化することがあり、加工直後ではなく「時間差」で問題が顕在化する点が厄介です。

    樹脂の中には、空気中の水分を吸収する性質を持つものがあります。
    代表的なのがナイロンです。
    MCナイロンと呼ばれる切削加工用のナイロンは機械部品でよく使われますが、湿度の高い環境に置くと水分を吸って膨らみます。

    吸湿性素材寸法変化の目安注意点
    大きいナイロン(MCナイロン)0.1%以上(100mmで0.1mm超)加工後に時間差で変化が現れる
    やや有りABS、PC(ポリカーボネート)若干の影響あり高精度部品では要注意
    ほとんどなしPVC、PP、フッ素樹脂(PTFE・PVDF)寸法変化はほぼなし精度が必要な用途に有利

    さらに厄介なのは、吸湿による寸法変化はゆっくり進むため、加工直後には現れず、しばらく経ってから問題が顕在化することです。
    私たちの加工現場でも、ナイロン部品を扱うときは保管環境に気を配ります。
    納品前に湿度を整えた場所で寸法を確認し、お客様にも使用環境について情報をお伝えします。
    乾燥した状態で出荷した部品が、お客様の倉庫で湿気を吸って大きさが変わってしまった、というトラブルを防ぐためです。

    素材選定の段階で、使用環境の湿度をどう想定するかが重要なポイントになります。

    「ガラス繊維入り」という選択肢

    ガラス繊維や炭素繊維を混入した強化樹脂は、熱膨張・吸湿による寸法変化を抑制できますが、異方性・加工難易度・外観への影響といったトレードオフを理解したうえで選定する必要があります。

    どのようなメリットがあり、何に注意すべきか。
    具体的に見ていきましょう。

    評価項目内容
    メリット繊維がつっかえ棒のように働き、熱膨張・吸湿による伸び縮みを抑制
    うまく設計すればアルミニウムに近い寸法安定性も実現可能
    デメリット①繊維が並ぶ方向には効果が高いが、垂直方向には効果が薄い(異方性)
    デメリット②繊維が刃物を傷めやすく、加工難易度が上がる
    デメリット③透明感が失われたり、表面の見た目が変わることがある

    高い寸法精度が必要な部品では、こういった選択肢も含めて素材を選ぶ必要があります。
    私たちは設計段階からのご相談にも対応していますので、用途に応じた最適な素材選びをお手伝いします。

    金属の感覚で図面を書かないこと

    樹脂部品の寸法精度トラブルを防ぐには、「公差感覚のリセット」「使用環境を含めた設計」「経験豊富な加工業者の早期巻き込み」という3つが鍵になります。

    ここまで解説してきた熱膨張・加工発熱・吸湿の問題は、設計と発注の段階で事前に手を打つことで、大半のトラブルを防ぐことができます。

    #チェックポイント内容
    1公差感覚をリセットする金属の±0.01mmを樹脂に要求しない。樹脂に適した公差(±0.05mm〜)を設定する
    2使用環境を含めて設計する検査室と使用現場の温度・湿度の差を想定した公差設計を行う
    3加工業者を早めに巻き込む図面完成前の段階から現場ノウハウを活かす。同じ素材でもロット・保管状態で挙動が変わることがある

    まとめ

    このコラムのポイントを3つにまとめます。

    • 樹脂は熱膨張・加工発熱・吸湿という3つの性質により、金属と同じ公差が出せない
    • 素材ごとに熱膨張係数や吸湿性が異なるため、用途に合わせた素材選定が精度管理の第一歩
    • 公差設計・使用環境の想定・加工業者の早期巻き込みで、大半のトラブルは防げる

    樹脂部品の精度は「加工の腕」だけで決まるものではありません。
    素材選定・設計・環境管理という上流からの取り組みが、最終的な品質を左右します。

    よくあるご質問

    プラスチックの寸法精度は金属と比べてどれくらい低いですか?

    樹脂切削加工で一般的に実現できる精度は±0.05〜±0.2ミリ程度で、金属加工(±0.01ミリ以下)と比較すると5〜20倍の公差が必要になります。これは樹脂の「やわらかさ」「熱膨張の大きさ」「吸湿性」によるものです。フジワラケミカルエンジニアリングの切削加工では最大±0.05ミリまで対応していますが、それでも樹脂加工としては高精度な部類に入ります。

    樹脂の熱膨張係数は金属の何倍ですか?

    一般的な樹脂の熱膨張係数は金属の約10倍です。たとえば長さ1メートルの部品が10度上昇した場合、金属は約0.1ミリしか伸びませんが、樹脂は約1ミリ伸びることがあります。特にポリエチレン・ポリプロピレンは熱膨張が大きく、PEEKやPPSは比較的小さいため、精度が必要な用途では素材選定が重要になります。

    吸湿で寸法が変わる樹脂素材はどれですか?

    代表的なのはナイロン(MCナイロン)で、湿度の差によって寸法が0.1%以上変化することがあります。ABSやポリカーボネート(PC)にも若干の吸湿性があります。一方、PVC・ポリプロピレン・フッ素樹脂(PTFE・PVDFなど)はほとんど吸湿しないため、寸法安定性を重視する場合はこれらの素材が有利です。

    プラスチック部品の寸法測定はどのような環境で行うべきですか?

    温度と湿度が一定に管理された環境での測定が原則です。樹脂は金属の約10倍の熱膨張係数を持つため、測定室と使用環境の温度差があると、検査で合格しても現場で寸法が合わないケースが生じます。国際規格では一般に23±2℃が標準測定環境とされており、特に精密部品では測定環境の管理が不可欠です。

    樹脂の寸法安定性を高めるにはどうすればよいですか?

    主な対策は3つあります。①吸湿しにくい素材(PVC・PP・フッ素樹脂など)を選ぶ②ガラス繊維・炭素繊維入りの強化樹脂で熱膨張を抑える③加工時の切削速度・冷却管理を徹底して加工熱による変形を防ぐ、です。用途に応じた公差設計も重要で、設計段階からご相談いただくことで最適な素材と加工条件をご提案できます。

    プラスチックの寸法精度・素材選定についてのご相談はこちら

    プラスチックの寸法精度や素材選定についてご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

    • 「この素材で±0.05ミリの精度は出せますか」
    • 「金属から樹脂に切り替えたいが、公差設計をどうすればよいか」
    • 「ナイロンを使いたいが吸湿トラブルが心配」
    • 「図面がない段階でも相談したい」

    ── そんなご要望にも、素材選定の段階から対応しています。

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