「樹脂材料危機」は終わらない:価格沈静化の裏で進む材料・需要・人材の三重逼迫

── 値下がりするナフサと逆行する材料逼迫、半導体装置受注の急増、現場が向き合う三つの課題

2026年4月、私たちは「樹脂材料危機」の本質と中小製造業の生存戦略について警鐘を鳴らしました。
あれから2か月、原料価格は確かに落ち着き始めています。しかし、現場の実感はむしろ悪化しているのです。

本コラムでは、以下の3点を中心に解説します。

  • 原料価格のピークアウトと、それでも材料が手に入らない理由
  • 半導体製造装置市場の急回復が突きつける需給ギャップ
  • 材料・人材・生産性という三つの課題への向き合い方

「なぜ原料が下がっているのに材料は手に入らないのか」「需要急増にどう備えるべきか」といった、設計・調達担当者が今まさに直面する疑問に答える内容です。

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    原料価格はピークアウトしたが、危機は終わっていない

    ナフサ価格は下落に転じましたが、現場の材料逼迫はむしろ深刻化しています。

    2026年4月のコラムでは、信越化学工業による塩化ビニル樹脂の値上げを取り上げ、複数回の価格改定が避けられない「インフレの連鎖」を予想しました。
    この予想は的中しています。
    信越化学は3月16日に塩ビ樹脂を1kgあたり30円以上、約2割の値上げを発表し、4月1日納入分から適用しました。
    さらに4月20日には2度目の値上げを発表し、5月11日納入分から再び30円以上を引き上げています。
    4月・5月の二段階を合わせると、出荷価格は約4割の値上げとなりました。
    国内エチレン設備の稼働率も4月には67.3%まで落ち込み、統計のある1996年以降で過去最低を更新しました。

    ところが、ここで潮目が変わり始めました。
    価格指標には、次のような変化が表れています。

    • ナフサ価格:シンガポールのスポット価格は5月16日に約1,043ドル/MTでピークを打った後、6月3日には約767ドル/MTまで急落(約3週間で26%下落)
    • 代替調達の進展:米国産ナフサの日本向け輸入が通常の約5倍水準に達するなど、中東以外からの調達が加速
    • エチレン稼働率:石油化学工業協会(石化協)は「5月以降は回復に向かう」との見通しを公表し、在庫の取り崩しで主要樹脂の出荷水準は前年並みを維持

    つまり、原料の市況だけを見れば、危機は峠を越えたように見えます。
    一方で、私たちが日々扱う産業用プラスチック材料の現物供給は、4月の時点よりもはるかに厳しい状況に変わっています。
    価格と現物が、はっきりと逆方向に動き始めたのです。
    この逆転現象こそが、6月時点の最大の論点といえます。

    材料はもっと手に入らない:見積りすら出せない現実

    原料価格が下がる一方で、PVC材料の現物確保は4月よりも難しくなっています。

    2026年6月、現場では次のような状況が常態化しています。

    • 新規案件用のPVC材料は確保が難しく、見積りそのものを出せないケースが増えている
    • 一般PVCや塩化ビニル配管もほぼ納品がなく、通常の2倍以上の価格でホームセンターから配管を調達する場面さえ発生している
    • 見積りを提出するには、まず顧客に必要な時期を明確にしてもらい、その時期に材料を割り当ててもらえるかをメーカーに確認するという手順を踏む必要がある

    なぜ、原料が下落しているにもかかわらず、材料はむしろ消えていくのでしょうか。

    これは、4月のコラムで指摘した構造問題が、時間差で表面化したものだと考えられます。
    3〜4月に行われた深い減産は、即座には元に戻せません。
    停止した設備の再稼働には最低でも30日以上を要するとされています。
    さらに、国内のPVC需要の約50〜60%を占めるのは管材・継手であり、産業用板材の需要は10〜15%にすぎません。
    需給が締まると、優先順位の低い産業用板材が後回しにされやすい構造があります。
    加えて、価格高騰期に積み上がった注残(未消化の受注残)も、現物の供給を圧迫し続けています。

    このように見ると、危機の軸は「価格の波」から「供給そのものの確実性」へと移ったと言えます。価格は市況とともに上下しますが、この供給構造の脆さは、市況が落ち着いても残り続けるものです。設計担当者・調達担当者にとっては、価格動向だけでなく、納期リスクそのものを前提とした計画立案が必要になっています。

    半導体製造装置の受注が前年比2倍に:もう一つの激変

    材料が逼迫するなかで、半導体製造装置分野の受注は前年比2倍という急回復を見せています。

    2026年に入り、半導体製造装置の分野は一気に活況を迎えました。
    半導体製造装置の洗浄工程に使われる樹脂部品は、長年にわたって培ってきた中核分野であり、本来であればこの急回復は大きな追い風です。

    ただし、この急回復には伏線があります。
    2025年は、2022年のピーク時と比べて売上が半分まで落ち込んでいた時期でした。
    半導体業界は需要の波が非常に激しく、当時は受注の大幅な減退に直面し、厳しい局面が続いていました。
    そうした谷の時期を経て、2026年には急激な受注増加を迎えているのです。

    材料は手に入りにくいのに、つくるべき仕事は倍に増えました。この需給ギャップこそが、6月の現場が直面している最大のテーマです。そして、この需給ギャップは次に述べる「人材」という第三の壁へと直結していきます。

    需要急増が突きつける「人材」という第三の壁

    受注が倍増しても、それをつくる人材が不足していれば対応できません。

    2025年の売上が2022年ピークの半分まで落ち込んでいたなかで、人材を維持することは容易ではありませんでした。
    結果として、人員はピーク時から2割以上減少しています。
    そこへ、前年比2倍という急な受注増加が重なりました。減った人員で倍の仕事に向き合うという、厳しい構図が生まれています。

    この壁を乗り越えるために、当社では複数の対策を同時に進めています。

    人材確保のための取り組み
    • 派遣会社の活用:即戦力となる人材を機動的に確保する
    • 中途採用の強化:経験者の採用を積極化し、加工・溶接の現場力を底上げする
    • ミスマッチを防ぐ対策:適性の見極めを丁寧に行い、入社後の定着とチームへの適合を重視する

    さらに、需要は一段落するどころか、9月以降にもう一段上がる見込みです。
    この先の需要増に対応するため、採用と体制づくりを前倒しで進めている段階にあります。
    人材確保は、単なる人数の補充ではなく、増える受注を支えられる組織への転換そのものと言えるでしょう。

    私たちがいま向き合う三つの課題:材料・人材・生産性

    2026年6月の現場が直面しているのは、材料不足・需要倍増・人材不足という三重の逼迫です。

    ここまで見てきたように、2026年6月の中小製造業を取り巻く環境は、単純な価格高騰の話では済まなくなりました。
    材料が手に入らない、需要が倍に増えた、人が足りない ── この三つに同時に向き合う必要があります。
    現状の課題は、次の三つに集約されます。

    課題①:材料確保のための「三者の情報開示」

    逼迫する材料を確実に確保するために実践しているのが、三者での情報開示です。
    材料メーカー、顧客となる大手半導体装置メーカー、そして加工を担うサプライヤーの三者が、「誰が・いつ・何を・どれだけ必要としているか」をリアルタイムで突き合わせます。
    これにより、限られた材料が本当に必要な工程へ確実に流れるようにしています。
    4月のコラムで「情報共有が最大の交渉力」と述べた考え方を、そのまま実践している取り組みです。

    課題②:人材の確保による体制づくり

    派遣・中途採用・ミスマッチ対策を組み合わせ、9月以降のさらなる需要増を見据えた人員体制を整えています。
    減った人員から、増える需要に応えられる組織へ ── ここに最も力を注いでいます。

    課題③:限られた人と材料での生産性向上

    材料も人も限られるなかで受注に応えるには、一人ひとり、一枚一枚の生産性を高めるしかありません。
    端材の材質・サイズ・数量を即座に照会できる仕組みを整え、新規発注を抑えながら、設計段階から歩留まりを徹底することが求められます。
    価格のピークが過ぎた今だからこそ、こうした地道な現場力が効いてきます。

    材料確保・人材確保・生産性向上は、別々の課題ではありません。
    互いに支え合う一つの挑戦として、同時並行で取り組むべきテーマです。

    まとめ:価格の波ではなく、構造に備える

    か月前、材料ショックは繰り返されると述べました。
    今回の局面は、その意味を改めて示すものとなりました。
    価格は上がり、そして下がりました。しかし、供給の脆さ、需要の波、人材の課題という根本構造は変わっていません。

    価格の反落に一喜一憂するのではなく、構造そのものに備えることが重要です。
    三者で情報をつなぎ、人材を育て、歩留まりを高める ── 派手さはありませんが、こうした積み重ねが、需要の波が来ても材料が消えても事業を止めない力になります。
    材料調達や短納期対応に課題を感じている設計・調達担当者の方は、お気軽にご相談ください。

    ※ 本稿中の市況に関する価格・稼働率・日付などの具体的数値は、各種公表資料および2026年6月時点の報道に基づくものです。市況は流動的であり、最新の状況は変動する可能性があります。自社の受注・人員に関する記述は当社の実情に基づくものです。

    よくあるご質問

    なぜナフサ価格が下がっているのに、PVC材料は逆に手に入りにくくなっているのですか?

    3〜4月に行われた深い減産は、停止設備の再稼働に最低30日以上を要するため即座には回復しません。また、国内PVC需要の50〜60%を占める管材・継手が優先される一方、産業用板材は10〜15%にすぎず後回しにされやすい構造があります。価格高騰期の注残も供給を圧迫しており、価格と現物供給にはタイムラグが生じています。

    産業用プラスチック板材の見積りがすぐに出ない理由は何ですか?

    材料の現物確保が難しいため、見積り提出前に顧客側で必要な時期を明確にしてもらい、その時期に材料を割り当ててもらえるかをメーカーに確認する手順が必要になっているためです。確認が完了するまで、正式な見積りを提示できない状況が生じています。

    半導体製造装置分野の受注が急増している背景は何ですか?

    2025年は2022年のピーク比で売上が半分まで落ち込んでいましたが、2026年に入り業界全体が急回復し、受注が前年比2倍という水準に達しています。需要の波が激しい半導体業界特有の動きと言えます。

    受注増加に対して、現場の人材不足にはどう対応していますか?

    派遣会社の活用による即戦力確保、中途採用の強化による現場力の底上げ、適性を見極めたミスマッチ防止策を組み合わせて対応しています。9月以降のさらなる需要増を見据え、採用と体制づくりを前倒しで進めています。

    材料不足・人材不足のなかで、生産性を高めるための工夫はありますか?

    端材の材質・サイズ・数量を即座に照会できる仕組みを整え、新規発注を抑えながら、設計段階から歩留まりを徹底する取り組みが有効です。一人ひとり、一枚一枚の生産性を高めることが、限られた資源での対応力につながります。

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