押出し溶接×ポリエチレンが拓く厚物一体構造:タンク・構造物の新たな選択肢

水槽、タンク、排水槽などに用いられる箱状の構造物は、これまで「金属」「FRP」「コンクリート+防食塗装」が主流でした。しかし実際の現場では、それぞれに「重い・サビる・割れる・欠ける・扱いづらい」という課題がつきまといます。

こうした中、高密度ポリエチレン(PE)と押出し溶接技術の組合せが、「軽くて割れず、腐食せず、自由に形をつくれる」という全く新しい選択肢として注目されています。

押出成形溶接は、PEなどの熱可塑性樹脂を加熱・溶融し、専用ノズルから押し出すことで、必要な部位に直接樹脂を盛り付け、母材と一体化させることができる技術です。従来のボルトや接着剤による接合と違い、溶接部が「母材と完全に一体化」し、気密性・耐久性に優れた構造体を生み出します。さらに、板材をベースに複雑な立体構造を自由に組み上げられるため、現場ニーズに合わせたカスタム設計がしやすく、小ロット・多品種にも柔軟に対応できるのが大きな特長です。

比較でわかるPE溶接構造の優位性

以下は、よく使われる3素材とPE押出し溶接構造について、実務視点で比較した表です。現場での設計・施工・メンテナンスなど、実際の業務で重視されるポイントに着目しています。

比較項目鉄(SUS/SS)FRPコンクリート+防食塗装PE押出し溶接構造
腐食リスク△(条件付き)△(ピンホール・膨れ)◎(完全耐腐食)
割れや欠け×(繊維層割れあり)×(衝撃で角欠け)◎(衝撃吸収)
軽量性×(重い)×(最重量)◎(最軽量)
修理性×(再積層困難)×(再塗装不可)◎(再溶接可能)
成形自由度△(型が必要)×◎(板から組む)
一体感◯(溶接/ボルト)△(接着)×(打継ぎあり)◎(全周溶接)

この比較表からも分かるように、PE押出し溶接構造は従来素材と比べて、実用面で多くのメリットを持っています。
特に「軽さ」「割れにくさ」「継ぎ目の強さ」といった特長は、現場で選ばれる理由となっています。

実際に広がる現場採用:多様な業界でPE溶接構造が選ばれる理由

こうした優位性を活かし、PE押出し溶接構造は、今やタンクや排水槽といった従来用途にとどまらず、水産養殖施設・船舶・産業プラントなどさまざまな現場・業界で活用の幅を広げています
以下に、具体的な活用分野ごとの特徴とメリットをご紹介します。

主な使用例:現場を支える多彩な活用分野

活用分野
水産養殖・水槽設備

近年、水産養殖現場の大規模化・効率化に伴い、PE製水槽や配管、ろ過槽のニーズが高まっています。

  • 大型一体構造の水槽や仕切り壁、オーバーフロー管、側溝などが「現場の寸法に合わせて製作可能。増設・レイアウト変更にも柔軟に対応できます。
  • 海水や各種薬剤、餌・排泄物による腐食にも強く、清掃性や耐久性の高さでメンテナンス負担を大幅に軽減
  • 水槽内部で割れや継ぎ目からの漏水リスクが極めて少なく、安定した飼育環境を長期間維持できます。
  • 破損や摩耗があっても必要な部分だけ現地溶接で修理が可能なため、稼働停止や入替コストも最小限に抑えられます。
活用分野
船舶・ボート製造・修理

プレジャーボートや作業船、桟橋などの浮体構造や外装部品にもPE押出し溶接が導入されています。

  • 船体外板や浮桟橋・タンク部分を一体成形できるため、ボルト・リベット止めよりも強固で水密性の高い接合が実現
  • 波や衝撃・船同士の接触・係留時の摩耗にも強く、割れや腐食の心配がありません。
  • 紫外線や海水への耐性が高く、長期使用での色あせ・脆化・劣化も起こりにくい
  • もしも穴あき・亀裂などの損傷があった場合でも、溶接補修だけで再利用でき、パーツ交換や長期ドック入りが不要。運用コストの削減にもつながります。
活用分野
産業設備・各種構造物

化学・食品・医療分野などのプラント設備や、搬送・排気用の大型ダクト、カバー、各種機械の筐体にもPE押出し溶接構造が広がっています。

  • 耐薬品性・衛生性・非吸湿性の高さを活かし、薬液タンクや反応槽、排気ダクトなどの過酷な使用環境に最適。
  • 複雑な形状や現場合わせの加工がしやすく、設置スペースやライン変更にもスピーディに対応。
  • 清掃がしやすく、付着物や汚れがつきにくいため、食品・医療現場など高衛生エリアでも採用されています。
  • 万一の破損時も、部分溶接でピンポイント修理が可能。全体交換や長期停止を避けられるため、トータルメンテナンスコストの低減に寄与します。

このように、押出し溶接とPE構造体は「水に強い」「衝撃に強い」「修理しやすい」「形が自由」という特性を最大限に発揮し、従来素材では難しかった現場課題を解決するための「現場密着型の新たな選択肢として、幅広い業界で高く評価されています。

PE溶接構造は軽いのに、割れない。その理由

PE押出し溶接構造が現場で選ばれる背景には、次のような明確な理由があります。

理由
驚くほど軽い

例:20mm厚のPE板で製作したW2000×D1000×H1000mmのタンクは、鉄やFRP製の同等構造よりも約30〜60%軽量
クレーン不要・手搬入可能なケースもあり、省施工・省人化にも大きく貢献します。

理由
割れない・欠けない

PE素材は弾性・靱性(ねばり強さ)に優れ、外部からの衝撃や落下物によるクラックが極めて起きにくい。
角や溶接部にも「応力集中」が起きにくく、水槽の角欠け・底割れトラブルが激減します。

理由
継ぎ目が強い

押出し溶接では、母材と同材を溶かして盛り、冷却硬化させます。これはいわば「母材と一体化する補強リブ」のような役割を果たし、継ぎ目からの破断や剥離を防ぎます。

板から形を起こす。押出し溶接という「立体構築技術」

押出し溶接は、単なる「貼り合わせ」や「接着」とは一線を画す、本格的な立体構築技術です。
設計図通りにカットしたPE板材を、ホットエアーでじっくり前加熱し、そこへ溶融樹脂をノズルで押し出して、圧着・冷却しながら一体化させていきます。
この工法は、母材同士が「分子レベルで結びつくため、接合部も本体と同等以上の強度や耐久性が得られるという大きな特徴があります。

設計自由度の高さ
  • フレームレスで自立する箱型構造や、特殊なアール・複雑な段差形状など、従来工法では実現が難しかった立体構造を思いのままに設計可能です。
  • 板材のサイズ・厚み・形状を自在に組み合わせることで、現場ごとに「必要なだけ・必要なかたち」でオーダーメイド対応ができ、余計な補強や金型も不要です。

例えば、排水しやすい底面スロープを持つ水槽や、仕切り板・段差吸込み部の一体成形など、従来では分割構造や追加加工が必要だった仕様も、押出し溶接なら「ひとつながりでスマートに形にできます。
これにより、水密性や清掃性も向上し、保守や衛生面の負担も大きく軽減されます。

屋外でも安心。紫外線・劣化・温度差にも強い

PEは数ある熱可塑性樹脂の中でも、耐候性・耐紫外線性に突出して優れた素材です。特に黒PEやUV添加グレードは、強い日差しや雨風に晒される屋外環境でも10年以上の長期耐久性を発揮します。
紫外線による脆化・変色・ひび割れなどの劣化リスクが大幅に抑えられ、日射や塩害が厳しい沿岸部や山間地、寒暖差の激しい環境でも安定した性能を保ちます。

また、PEは低温下での靱性(割れにくさ)も高く、冬場の凍結や真夏の熱膨張にも柔軟に追従します。コンクリートやFRPのような「割れ」「膨れ」「塗膜の剥離」といったトラブルが起こりにくいため、
屋外設備や露出配管、タンクの長期安定運用に最適です。

衛生面も万全。洗浄・メンテもスムーズ

PE構造体は、表面が非常に平滑で汚れが付着しにくく、清掃やメンテナンスが非常に容易です。これにより、食品工場や医療・化学プラントなど、高い衛生管理を求められる現場でも安心してご利用いただけます
さらにPEは酸・アルカリ・有機溶剤など多様な薬品に強く、腐食や変質の心配がほとんどありません。

メンテナンスポイント
  • もしもの破損時も、部分的な押出し溶接で現地修理が可能です。従来のような全体交換や大掛かりな工事を必要とせず、ダウンタイムも最小限に抑えられます。
  • こうした特性から、長期的にみた維持管理コストの大幅な低減にもつながり、トータルでの導入効果が非常に高いのも魅力です。

まとめ:「鉄でもFRPでもない選択」が切り拓く現場の新たな価値

押出し溶接によるPE(ポリエチレン)構造体は、単なる代替素材ではありません。
これまで金属やFRP、コンクリートでは当たり前だった「重い」「割れる」「サビる」「形が限られる」といった制約を取り払い、構造そのものの設計発想や現場の運用スタイルに新しい選択肢を提供します

PE押出し溶接構造は、「軽量」「高い耐久性」「完全な耐腐食性」「修理の容易さ」「カスタム設計の自由度」「高い衛生性」など、現場で実際に求められる多くの特長をバランス良く備えています。
これにより、省施工・省人化や長寿命化・メンテナンス性の向上など、現場ごとに「最適解を追求できるようになりました。

私たちはこれからも、現場とともにあるPE構造の伴走者として、使い手の声に真摯に向き合い、より安全・快適・効率的な現場環境づくりに貢献してまいります。